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編集部だより

横溝正史の『獣人魔島』(偕成社こんな本もありました 6)

獣人魔島 1959年(昭和34年)刊行
横溝正史/著 岩田浩昌/絵
 
偕成社は、今年創業81周年。
このあいだに、数多くの本が刊行されてきた。
そのなかには、時代を反映しながらも、いまとなっては、
すでに忘却のかなたとなった出版物も数多くある。
ここでは、そんな過去の作品から、「知られざる一品」を紹介していこう。 
 
昭和30年前後の少年・少女雑誌に連載されていた探偵小説、これを一連のシリーズにまとめたものが「冒険・探偵小説」である。執筆陣は豪華絢爛、西條八十、柴田錬三郎、高木彬光、野村胡堂、横溝正史、などなど、大御所ばかりだ。巻末の奥付広告を見ると、血湧き肉躍る惹句が読書欲を刺激する。
『妖気漂う魔の屋敷に夜毎現れる青蛙男! 名探偵の活躍空し、青衣怪人の怪奇な大陰謀』(青衣の怪人)
『恐ろしき宿命を背負った怪盗紅水仙! 暗夜の巷に出没、満都を戦慄の渦にまく怪奇冒険』(まぼろし令嬢)
『病む姉を助ける健一、苦しい中にも希望にもえ、一途に栄光めざす少年の友情感激物語』(栄光の陰に)
最後のは、なんだかよくわからないが、とにかくこの時代特有の「おどろおどろしさ」がいい。
挿絵にいたっては、言わずもがなである。
 
本文扉
 
 では、そのなかの一冊『獣人魔島』を読んでみよう。
 
 作者は、名探偵金田一耕助でおなじみ横溝正史、小菅刑務所から極悪死刑囚「梶原一彦」が脱獄するところから物語ははじまる。死刑判決の逆恨みから判事宅を急襲した梶原は、探偵小僧の御子柴くんらの追撃をかわして、ある洋館付近に行方をくらます。しかし、その洋館の主、鬼頭博士こそは絶海の孤島(ほんとは瀬戸内海)で世にも恐ろしい人体実験を画策していたのだ。大きなトランクを携えて島に向かう鬼頭博士を、探偵小僧の御子柴くんが決死の覚悟で追跡する。
 
本文挿絵
 
 こう書くと、H .G .ウェルズの『モロー博士の島』を思い浮かべる読者もいるかもしれない。しかし、この本はSFではない。探偵小説なのである。息もつかせぬ展開、そして最後の大どんでん返し。ミステリ界の巨匠は、少年小説も全力投球なのだ。
 そしてこの本には、表題作「獣人魔島」のほかに、3つの短編がおさめられている。そのなかの「燈台島の怪」というお話では、あの金田一耕助が少年助手の立花くんとともに暗号の謎解きに挑む!
「横溝正史を子どものときに読む贅沢」
  ある程度の年を重ねて、しみじみとこんなことを思う。
 
表紙画像
 
 
(編集部 早坂)
 

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今日の1さつ

毎日をまじめにコツコツ生きるトガリネズミを見ていたら、自分の日常ももしかしてこんなに静かな幸せにあふれているのかも、と思えました。海に憧れて拾ったポスターを貼ってみたり、お気に入りのパン屋さんで同じパンを買ったり。駅中の雑踏やカフェでふとトガリネズミを見かけそうな気がします。(40代)

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