ワンナ・ビーは、魔法使いの父さんと、魔女の母さんの間に生まれた女の子。「立派な魔女になるにちがいない!」と思われていたのですが……。
誰にでも、得意なこと・不得意なことがある。苦手なことがある分、できることがある。『まじょのむすめ ワンナ・ビー』(竹下文子 作/種村有希子 絵)は、そんなメッセージをやさしく伝えてくれる絵童話です。
愛情いっぱいに育てられた、ワンナ・ビー
ワンナ・ビーは、森の中の家で生まれました。父さんは魔法使い、母さんは魔女です。深い愛情を持ったふたりは、小さいワンナ・ビーに、草や花の名前や、生き物のこと、月や星のことなど、たくさんのことを教えてくれます。それらを楽しく学んで吸収し、また、母さんのほうきに乗ることを怖がらず、きゃっきゃとはしゃぐワンナ・ビーをみて、父さんと母さんはうれしそうに言いました。
「大きくなったら、きっと、すごいまじょになるわよ。」
「あたりまえさ。そりゃあ、ぼくたちの子どもなんだから。」
学校に入ったものの、勉強は苦手……でも?
6歳になり、ワンナ・ビーは、魔女の学校に通いはじめました。母さんは、ワンナ・ビーは賢いから、6年分の勉強を、3年ほどでできてしまうのでは、と考えていました。
ところが、そうではありませんでした。ワンナ・ビーは、学校の勉強が、とても苦手だったのです。
杖をつかい、呪文をとなえて紙を折る「おりがみ」を、クラスでひとりだけできなかったり、体育の時間、みんながとびばこをひらりと飛び越えるなか、ワンナ・ビーのほうきは3cmしか浮かばなかったり。呪文はひとつも覚えられませんでした。
けれども、ワンナ・ビーはそういったことを、気にしていませんでした。折り紙は手で折ってハトを作れましたし、ほうきは落ち葉をはくのに役立ちます。呪文は覚えていなくても、かわりにワンナ・ビーは、きれいな歌をたくさん知っていました。
やがて1年生の終わり、「光の玉をつくる」というテストで、ワンナ・ビーはうまく光の玉を作れず、父さんと母さんは学校から、「おたくのおじょうさんは、まじょにはむいていないようです。」と言われてしまいます。
父さんと母さんはよく話し合い、「ワンナ・ビーは魔女には向いていないかもしれない、でも、大事な子どもだということは、少しも変わらない」と確かめ合って、ワンナ・ビーを人間の学校へ転入させることを決めました。人間の学校でも、ワンナ・ビーはあいかわらずでしたが、魔法を使わずにいろんなことをするのは、楽しいものでした。
そして夏、ワンナ・ビーが学校の行事でキャンプに出かけた日。夕方からの急な大雨で、キャンプ場の建物が停電し、みんなが怖がって泣き出してしまったとき……ワンナ・ビーが、ある小さな奇跡をもたらします。
できないことがあっても、大丈夫。焦る気持ちをやさしく包み込んでくれる童話
学校のような、みんなが一斉に何かに取り組む場所では、みんなと同じようにできないことがあると、焦ってしまったり、悲しくなってしまったりすることもあるでしょう。がんばりたいという気持ちがあるからこそ、後ろ向きな気分になってしまうこともありますね。しかし、ワンナ・ビーは、学校の勉強ができないことを、ちっとも気にしていません。勉強とは別の、たくさんの大切なものを見聞きし、知っているからです。
誰にでも得意なこと・不得意なことがあり、苦手なことがある分、できることがある。そのことを作者の竹下文子さんが、ワンナ・ビーを通じてわたしたちに教えてくれます。愛情を注いでくれる両親の描写にも、心があたたまります。
種村有希子さんの淡くやさしいタッチのイラストが、全ページにフルカラーでたっぷり入っているところにも注目です。ぜひ、学校生活をはじめる1・2年生ごろから、ひらいてみてください。