好きなものに没頭できる時間っていいですよね。「ぼくのまつり縫い」シリーズ(神戸遥真 作/井田千秋 絵)の主人公・針宮優人(ハリくん)は、お裁縫やフリフリしたかわいいものが大好きな中学生。でも学校では、周りの目を気にして、自分が好きなものを隠しています。被服部での3年間を通じて、悩みながら成長するハリくんを丁寧に描いたシリーズ全3巻をご紹介します。
好きってことはだれにも秘密。のはずだったのに!
1巻目『ぼくのまつり縫い 手芸男子は好きっていえない』は、中学1年生の1学期からはじまります。ハリくんは、ピンクやフリルが好きなことを周りにからかわれ、恥ずかしい思いをした経験があったため、今は裁縫好きを隠して、サッカー部に入っています。
ところがある日、教室でズボンのすそをまつり縫いしているところを、クラスメイトの糸井さんに見られたことから、急きょ被服部の助っ人として駆り出されることに。
お裁縫が好きなことはばれたくない、でも針を持つとどうしようもなくワクワクする……。そんな葛藤を抱えながらも、けがでサッカー部を休んでいたハリくんは、頻繁に被服室に通うようになります。
けがが完治した夏休み明けのある日、ついにハリくんは、サッカー部の親しい友だちに、自分の本当の気持ちを打ち明ける決心をします……。
被服部の仲間たちと接する中で、自分に正直になることができたハリくん。恥ずかしさやうしろめたい気持ちを抱えながらも、「友だちだからわかってほしい」一心で、勇気をふるって打ち明ける場面は、読者も思わず「がんばれ!」と応援したくなります。
「フツーじゃない」っていいたくない。「受け入れる」ことの難しさと大切さ
2巻目『ぼくのまつり縫い 手芸男子とカワイイ後輩』で2年生にあがったハリくん。はじめての後輩・小倉さんが被服部に入ってきますが、彼女は協調性がゼロ。被服部「なのに」手芸が苦手な先輩に「なんでそんなことも知らないんですか」、男子「なのに」かわいいものが好きな優人に「ガッカリ」と言い放つなど、周囲が自分の当たり前とちがうことに対していらいらしているようです。
裁縫好きを周りから受け入れられた経験から、ハリくんは小倉さんのことも「ありのまま」で受け入れたいと思いますが、あるとき我慢の限界がおとずれて……?
1巻目では「みんなとちがう」ことに悩んでいたハリくんですが、2巻目では「みんな」側。被服部になじもうとしない後輩との関わり方に悩みます。自分とちがうことを「ヘン」といいたくない。だれかの「好き」も大切にしたい。後輩ができて、考えが少し深まったハリくんに注目です。
将来の役に立つってなに? 手芸男子存続の危機?!
3巻目『ぼくのまつり縫い 手芸男子と贈る花』では、ハリくんは3年生。被服部の部長になり、部活と受験勉強の両立でますます忙しくなる一方、進路のことでも頭を悩ませます。
被服部のある高校にしようとぼんやり考えていたハリくんでしたが、担任の先生には「趣味で学校をきめるのはどうかな。将来の役に立つわけじゃないし」と言われてしまいます。ハリくんは、自分が今までやってきた被服部の活動まで否定されたように感じ、悶々と考え込みます。周りに相談しながら、最後にハリくんが出した結論とは? 3巻通して、ハリくんのことを見守ってきた読者に、さわやかな感動を与えてくれるシリーズ最終巻です。
著者・神戸遥真さんがおくる、少年少女たちへのエール
著者の神戸遥真さんもかつて、「小説なんて書いてるんだ?」とからかわれたことがあるそうです。その経験から、読者が自分の「好き」を肯定してくれる誰かに出会えたらいいな、という思いがこのシリーズにはこめられています。
今まさに「好きなこと」を隠して生きている人がいたら、ぜひこのシリーズを読んでみてください。ときに一人で悩みながら、ときに周りに相談しながら一歩ずつ進んでいくハリくんに、きっと勇気をもらえるはずです。対象年齢は小学校高学年から。