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〈書評〉

『ぼくのまつり縫い 手芸男子とカワイイ後輩』( 神戸遥真 作 井田千秋 絵)

本当の「好きなことで生きる」生き方を教えてくれた(文学YouTuberベル:評)

『ぼくのまつり縫い 手芸男子とカワイイ後輩』
(神戸遥真 作 井田千秋 絵)

好きなことで、生きていく。

YouTuberの有名なキャッチフレーズです。YouTuberに限らず、現代においては「好きなことを仕事にする」ことが良いことだと喧伝されています。

しかし、私の小中学生時代を振り返ってみれば、好きなもの・ことがたまたま少数派だった時に、それを言うことさえ憚られるような雰囲気がありました。

何もこれは「男だから〜」「女なのに〜」などの決めつけからくるものだけではありません。同性内においても存在するのです。

たとえば、私はお人形遊びをする時はバービー派でした。しかし、周りはリカちゃん派。

だから私は周りに合わせるべく、別に好きではないリカちゃん人形も持っていました。

なぜか?

恥ずかしかったからです。

同じように、恥ずかしいから自分の好きなことを隠していた男の子がいます。『ぼくのまつり縫い』の主人公である針宮勇人(はりみや・ゆうと)くんです。彼は巾着袋をつくるのが大好きな中学1年生の男子。しかし、周りからからかわれたことをきっかけに、このことは誰にも秘密にしていました。なのに!ひょんなことから手芸好きがバレてしまい、被服部の手伝いをすることになります。これは彼にとって大きな転機となりました。細やかな感性を持つ部活の仲間たちと一緒に過ごすことで、針宮くんは自分に正直になり、胸を張って手芸道を進むのです。

……と、ここまでは大団円ですが、物語は続くもの。2作目『ぼくのまつり縫い 手芸男子とカワイイ後輩』では、針宮くんは2年生に進級し、被服部にも1名の後輩おぐちゃんがやってきます。このおぐちゃん、なかなかにキツい性格です。あまり手芸に詳しくない先輩に対しては「なんでそんなことも知らないんですか」とバッサリ。カワイイものが好きな針宮くんのことも気に入らないらしく、面と向かって「ガッカリ」なんて吐き捨てます。

ショートカットでいつもスカートの下にジャージをはいているおぐちゃん。針宮くんは、何やら彼女にも貫きたい“好き”がありそうなことに気づきます。不器用なおぐちゃんを受け入れたい−−−−でも、その態度はさすがによくない−−−−なんて葛藤を抱えていると、今度は部長が部活に来ない問題が発生し……事件続出の被服部を読者は応援せずにはいられません!

私は、バービー人形を好きだったあの時、恥じらいの気持ちの他に「諦観」も持ち合わせていました。

理解できない人の前でわざわざ人と違うことをすると、面倒なことになるだけだから言わないというものです。

このクセは今でも直っておらず、5年前に私が大好きなYouTubeを始めた時も、そのことを家族や友人には告げませんでした。

「この歳になって何やっているんだ」

「まともな仕事をしなさい」

などと言われるのが面倒くさかったからです。

だから“好き”を公言した後の針宮くんは、今までに増して面倒で複雑な感情を知ることになります。

たとえば、「もう隠さない」と誓ったとはいえ、まだ周りの視線は気になるという感覚。

自分の“好き”が認められた経験から、他人の“好き”も尊重したいという考え。

これらを「受容」していくことは時に「我慢」に変わってしまうこともあり、感情を爆発させてしまう一幕もありました。

本当に人間って面倒くさいですよね。

しかし、都度自分ときちんと向き合い、相手との対話を怠らなかったからこそ、深い思慮や仲間との絆が培われたわけです。

これが本当の「好きなことで、生きていく。」なのかもしれませんね。

だから私も「バービーが好きで本が好きでYouTubeが好きなんだよ!」って、まだ何も知らないおばあちゃんに話してみようかと思い始めています。

そんな風に思わせてくれたのは紛れもなく針宮くん、あなたです。ありがとう!


*1巻目を文学Youtuberベルさんのチャンネルでご紹介いただいています!


文学YouTuberベル
YouTubeで読書の魅力を発信する動画クリエイター。登録者12万人。書評を中心に作家対談や本にまつわるあれこれの解説などを配信。リアル書店のプロデュースや文庫フェアコラボなども実施。

YouTube : 文学YouTuberベル
Twitter:@belle_youtube
Instagram:belle.gokigenyou

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今日の1さつ

2年前から一人暮らしです。書店で本を目にして、トガリネズミの愛らしいすがたに、つい買ってしまいました。主人公がとてもかわいくて、1ページ、1ページ色んなことを想像して、楽しくて、最後読み終わったとき、「そっか〜良かったね」と声が出てしまいました。ほんわかとやさしい気持ちになり幸せでした。(60代)

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