さまざまな行先があり、特別な気分が味わえる特急列車。『とっきゅうれっしゃがやってくる!』はそんな特急列車に乗るまでの親子を追いながら、駅やホーム、列車の「音」にも着目した、あたらしい絵本です。本作について、著者の鎌田歩さんにお話を伺いました。
これまでも数多くののりもの絵本を描かれている鎌田さんですが、やはりのりものは小さいころからお好きでしたか?
父や父の兄弟もクルマやオートバイが好きだったので、自然に乗り物が好きになりました。小学生の頃は自転車に乗って遠くまで行くのが大好きでしたし、高校生になると自転車がオートバイになり、大人になってクルマに乗って……最近は、ママチャリで買い物や銭湯に行くのが楽しいです。
実は電車はあまり好きではなかったのですが、たぶん自分で運転できないのがその理由だった気がします。絵本を作りはじめてから、電車の魅力がわかってきました。
『とっきゅうれっしゃがやってくる!』は、電車の「音」に着目した絵本になっていますね。さまざまに工夫された「音」の表現がとてもリアルで、頭のなかで実際に列車の音がきこえてくるようです。電車の音を文字で表現する機会は、これまでにもありましたか?
今回の絵本は「電車(のりもの)」で作ることは前提として、「音」を題材のひとつにしよう、ということではじまりました。いままで擬音を描くのは必要なときに、という感じでしたが、擬音の表現も絵の要素として入れるつもりで作ったのは初めてです。こどもの年齢によって受け取り方は様々かもしれませんが、よりリアルに感じてもらえたらいいなと思います。
駅と列車の様子が、左右のページで同時進行していくのも特徴的ですよね。構成のアイデアは、どのように生まれたのでしょう。
電車の走る音には車輪やレール、架線や踏切などのいろんな音がまざっていて、それぞれの音をひろっていけば何かできるんじゃないかと思っていました。でも、乗っているとあんまり聞こえないよなとか、そういえば駅やホームにもいろんな音があるなあ……といろいろ考えているうちに、主人公たちが乗らないほうが面白いかも、と思いはじめたのがきっかけだった気がします。
たしかに主人公たちが「乗るまで」を描くというのは意外とない、ユニークな作りですよね。電車のなかでも、新幹線などではなく「特急列車」の旅というのも新鮮でした。あえて「特急」を選ばれたのはなぜでしょうか?
新幹線などの絵本はすでにいくつか作っていたので、ほかのものでと考えていました。いろんな電車があるなかで「電車の旅」に近いのは特急列車だろうな、ということで進めていったのですが、今回絵本制作のために取材してあらためて、たくさんの魅力を発見できました。

絵本の特急列車のモデルとなった「しらさぎ」

取材中の鎌田さん
駅の様子や風景をリアルに描くために、実際に「しらさぎ」に乗って取材されたそうですね。ぜひあらためて感じた特急の魅力も教えてください。
新幹線に乗るときはどうしても速く移動することが目的になりがちですが、特急列車は在来線の線路を走るので、車内の空気も比較的のんびりしている気がします。取材でも、車窓の風景も町の生活を感じられて、旅の雰囲気がすごく新鮮でした。
お話の中の季節は決めていませんが、取材したのは夏の暑い時期だったので、駅やホーム、車内の雰囲気が、なんとなく夏っぽいかもしれません。

絵本の駅のモデルとなった滋賀県の米原駅
絵本の中で、ここに注目してほしい! という場面はありますか?
今回の絵本は、どの場面でも特急列車が走ってくることを感じられるように作ったので、特定の場面というより、じわじわと高まってくる期待感と旅がはじまるワクワク感を味わってもらいたいなあと思います。読み聞かせの方は大変かもしれませんが、自由に工夫して楽しんでもらえたら嬉しいです。
さいごに、これから描いてみたい絵本の題材があれば教えてください!
題材はいつも探しています。描きたい絵というより、自分がまだ見たことがない景色を考えたり、描いたりできたらいいなと思います。
次回の作品も楽しみにしています。ありがとうございました!