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編集部だより

祝・産経児童出版文化賞大賞受賞 絵本『やとのいえ』の裏側

みなさんこんにちは。編集部の藤田です。このたび絵本『やとのいえ』(八尾慶次 作/2020年)が第68回産経児童出版文化賞の大賞を受賞しました。やれめでたい。それを記念して、ちょっと裏話をご紹介!

 この絵本は日本の農村の150年を定点観測で描いた作品です。東京郊外・多摩丘陵の農村をモデルにしています。

かわいいミニラフ。サングラスとくらべると大きさがわかる。

こんな小さなラフからスタートです。お話は当初、戦国時代からでしたが、その時代の民衆のくらしの資料をうまくさがせるかな(しかも多摩地域)、と感じたので、はじまりは比較的調べやすい明治時代から、としました。

大阪・千里ニュータウンなどもモデルのひとつだった。

 この段階で、結末に出てくる町はほぼ架空の町です。でも架空の町だと逆にどう描けばリアリティが出るか難しくなるので、私の育った土地にも近い多摩ニュータウンをモデルに設定しました(私は東京・町田市出身)。どこにいけば資料があるのかもよく知っていたからです。作者の八尾さんも、お生まれは多摩丘陵の近く、神奈川県相模原市です。

 監修は東京・多摩市にある複合文化施設パルテノン多摩の博物館学芸員である仙仁せんにけいさんにお願いしました。見てくださいこのフセンの数! こうした事実関係のチェックを何度も繰り返して、より現実感のあるものに近づけていきました。人びとの履き物なんかは、足もとまでうつっている写真、描写されている絵が、なかなかなく苦労しました。

目かごには使いみちによって種類がいろいろある。魚用、貝用、養蚕用など。

 この絵、左上の縁側で目かごを作っていますが、幕末から昭和30年代まで、多摩丘陵は目かごの一大生産地でした(地元ではメカイと呼ぶ)。「大東京」のそばの土地だったからですね。いまはプラスチックなどのザルにかわりましたが、昔の人は篠竹の目かごを使ったんですね。

 こんな明治時代の出荷のときの写真が残っています。びっくり。『写真でつづる100年』(パルテノン多摩)より。

このラフでは箱状のものにすわって苗をとっている。フセンに指摘がある。

 こちら、水のはった苗代にすわっていますね。この腰掛けているものも形がちがう、ということで資料写真をいただき、本番では次の絵のようなかたちになりました。

本番ではこうなった。目立たないところだが細部は大事とあらためて感じた。

 多摩の水田は水が多いので、こうした籠に腰かけて作業しました。房総半島に田植えの手伝いにいくと「なんでそんなのに座っているんだ」と笑われた、という話が残っています。

乳牛の絵。多摩で乳牛が見られるようになったのは戦後のこと。

 乳牛が描かれていますが、こちらは土地の古老(昔のことを体験して知っている)に直接うかがいました。

多摩市の田中登さん(故人)。本人しか知りえないような貴重な証言をうかがう。

 「酪農は戦後、山形からきた人が丘の上ではじめたんだ」とのこと。あたりまえですがいつのまにか始まったわけではないんですね。こうした証言があってはじめて安心して絵にすることができます。

絵にはあらわれてこない家族の歴史。

絵には描かれない家の内部。

 こちらは作者の八尾さんが考えたこの農家の家系図と、茅葺きの家の間取り図です。こうした設定が絵本の裏側にはあるんですね。

 絵本『やとのいえ』に描かれているモノやコトは、こんなふうにどれも元になった資料や証言があります。それを作者の八尾慶次さんが、ご自身のなかに取り込んで、ていねいに絵にしてくださいました。そうして6年の歳月をかけて形になったというわけです。

 ぜひ書店さんで手にとってみてくださいね。

(編集部・藤田)

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