ユニコンブックス『スパイ術てってい解剖』 1974年(昭和49年)刊行
獅崎一郎/著
偕成社は、今年創業83周年。
このあいだに、数多くの本が刊行されてきた。
そのなかには、時代を反映しながらも、いまとなっては、
すでに忘却のかなたとなった出版物も数多くある。
ここでは、そんな過去の作品から、「知られざる一品」を紹介していこう。
スパイが一大ブームとなった時代があった。
男の子は「スパイ手帳」を買って、溶けるメモ用紙を川に流し、テレビのチャンネルをひねると、スパイが「殺されても当局は一切関知しない」指令を受けていた。映画館では、コードネーム、ダブルオーセブンのスパイが大活躍していたし、イギリスの小説家は自らのスパイ経験を生かし、『ヒューマン・ファクター』を書き上げている。
我が家においても、晩酌をしていた父親がテレビを見るなり、「あ、こいつ、マタハリだ」と声を上げていた。あたかもマタ・ハリが自分の知り合いのような言い草である。
そんなスパイ全盛の時代にこの本は刊行されたのだ。
著者の紹介ページを見ると、「一流のスパイは、まず口がかたいことである。先生は、口がかたい点では、一流のスパイなみである。自分の過去などは、なるべくしゃべらない」とガードが、とにかくかたい。やはり、正体を明かしては、身に危険が迫るのか。
本を開いてみると、劇画イラストをふんだんに盛り込んだ緊迫感溢れる内容となっている。「スパイの逃亡術」という項目を見てみよう。
「いかに敵のスパイをまくかも大事なことだ!」
驚愕ついでにもうひとつ紹介すると、
にぎやかな町で、尾行されているのに気がついた。その時スパイはどうする?
なぜだろう。わかるかな?
すでにおわかりのとおり、まさにスパイの全貌をあますところなく解説した一冊と言えるだろう。ちなみに劇画を描いているのは、ムッシュー・田中さんという方です。
それでは、著者の言葉で幕を閉じることにする。
「歴史のかげで目に見えず活やくし、歴史の流れを変えたスパイ、すなわち人間の記録をひとつあなたたちも考えてみてくださいね」
●「ユニコンブックス」は、当時、ユニコン出版株式会社の名義で刊行されました。