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編集部だより

ピーピー豆に集まる小さな虫たちの物語

2018.04.25

 こんにちは! 編集部の刑部(おさかべ)です。
 
 関東ではサクラも散って、春爛漫。
 この季節、日の当たる部屋で、本を読む・・・なんてのも、もちろんステキですが、花粉症も少しピークを過ぎた(?)と思いますので、みなさん、春のさわやかな気候のなか、外に出かけて、自然を楽しみませんか?
 
 ところで、僕は電車で通勤をしていますが、晴れの日はもちろん、雨の日も、雪の日も、毎日、ひとつ前の四ツ谷駅で降りて、市ケ谷の偕成社まで、30分近く歩いて通っています。
 
 そのときに歩くのが「外濠公園(そとぼりこうえん)」です。
 東京都千代田区(一部新宿区)にある公園で、江戸城外濠の土手や濠の跡を利用してつくられていて、濠に沿って、JR飯田橋駅付近から四ツ谷駅南側までの約2kmにわたって細長く続いています。
 

四ツ谷駅四ツ谷口を降りると、外濠公園の入口がある。公園はお濠の両岸に続いているが、これは北側の公園。

 
 毎日、公園の自然を見ながら歩いていると、いろいろな生き物に出会い、さまざまな発見があります。それが楽しくて、僕は毎日、公園を歩いているのです。
 
 これから何回かにわたり、その外濠公園で見る自然や昆虫などの生き物を紹介していくつもりですが、今回はそこで見た、春の自然のひとコマを紹介しますね。
 
 外濠公園は、サクラの名所としても知られていますが、ちょうどサクラが散って、その枝が一気に新緑の葉をつけるころ、サクラの根もとの地面や土手にも、春の草花たちが勢いづいて茂りはじめます。
 

今年のサクラは、あっという間に咲いて、あっという間に散ってしまった。

 
 さあ、いよいよ、本格的な春がやってきます。虫の季節がはじまった!のです。
  
 朝の9時前とはいえ、気温はもう18℃ぐらいはあります。なにかいないかな? 草むらに近づいて、見てみましょう。
 

「ピーピー豆」こと、カラスノエンドウ。地域によっては「スーピーピー」「シーピーピー」とも。

 
 いちばんめだって、幅をきかせている植物は、特徴的な羽状複葉の葉っぱに、赤むらさきの花、そして、かわいらしい小さなさや豆・・・そう、春の風物詩「ピーピー豆」こと、カラスノエンドウです。
 
 大きいお友だち(?)のなかにも、子どものころ、このさや豆の中身の豆を取り出してさやを口にふくみ、ピーピー音を鳴らして遊んだという方が、たくさんいらっしゃるのではないでしょうか。僕もそれが好きで、さんざんやった思い出があります。僕はそのころ関西に住んでいましたが、「シーピーピー」と呼んでいたと思います。
 

カラスノエンドウのさや豆。ピーピー鳴らすときには、さやの根もとのほうを少しちぎり、中身の豆を全部取り出す。

 
  うーん、茂みをよく見たけど、ここには虫はいなかった・・・もうちょっと先に行ってみましょう。
 

ナノハナも咲いています!「春じゃのう!」

 
  四ツ谷から外濠公園に入り、しばらく行くと、途中からぐっと右に曲がるところがあります。そのあたりの土手は、斜面がほぼ南向きになって、さっき見たところよりも日当たりがよく、暖かい。こっちの茂みには、なにか虫がいるかもしれない・・・
 
 ここいらも、カラスノエンドウの天下・・・ん? カラスノエンドウの花の根もとのところが、黒っぽくなっている!よく見ると、黒く小さなつぶつぶが、ぎっしり・・・いた! アブラムシです。
 
 年配の方で、ゴキブリのことを、俗称で「アブラムシ」と呼ぶ方がたまにいらっしゃいますが、ここにいるのは、ゴキブリのほうではなく、いわゆる「アリマキ」です。
 
 アブラムシは、セミや、カメムシと同じ「半翅目(はんしもく)」のなかま。ストローのような「吸う口」をもっていて、木の幹や草の茎など、植物の汁を吸って生きています。この黒いアブラムシは、マメアブラムシという種類のようです。
 

カラスノエンドウの汁を吸うマメアブラムシ。黒ゴマがびっしりついているように見える?

 
  このあたりのカラスノエンドウには、そこここに、マメアブラムシがついています。はしから見ていくと・・・お! マメアブラムシのところに、いっしょにアリがいますね。にゃるほど。アブラムシがおしりから出す甘露を、なめに来ているのだな。ふむふむ。
 

カラスノエンドウの汁を吸うマメアブラムシから、甘露をもらうアリ。

 
  あれ、こんどはアリだけが2ひき? あとで調べたのですが、カラスノエンドウの花のつけ根あたりには、甘い蜜の出る蜜腺があるようなので、アリはその蜜をじかになめに来ているのかも?
 

おそらく、カラスノエンドウの蜜腺から出る蜜をなめていると思われるアリ。

 
  うーん、でも、これをアブラムシたちが見たら、きっとこんなふうに言うかもしれません。
 
「アリさん、アリさん。そんなふうに、じかに汁を吸ってもいいけれど、あとでいいから、もしよければだけど・・・わたしたちのところに来て、おしりから出す甘露をなめてくれない?」
 
 アブラムシがなぜそう言うのか(もちろん、実際には言いませんが・・・)、虫が好きなあなたはおわかりですね。
 
 小さく、体にこれという武器をもたないアブラムシは、とてもか弱い虫。とくに夢中で植物の汁をなめているあいだは、とても無防備。でも、おしりから出した甘露を、アリがなめていてくれれば、自分たちのボディガードになります。
 
 アリは小さな虫ですが、それなりの大あごや蟻酸など、いくつか武器をもっているうえに、いざとなると、なかまを呼び、群集で攻撃してくるので、アリをきらう虫や動物はたくさんいます。だからアブラムシは、アリにはなるべくおしりから出す甘露をなめてもらうほうが都合がいいのです。
 
 さて、さらに見ていくと・・・で、でたあ! アブラムシのところに、ナナホシテントウの幼虫が!
 

ナナホシテントウの幼虫。マメアブラムシにくらべるとかなり大きい。これに襲われたら、ひとたまりもないだろう。

  
 ナナホシテントウや、ナミテントウは、肉食のテントウムシで、幼虫も肉食。肉食って、なにを食べるかというと・・・それが、アブラムシです。
 
 ナナホシテントウの幼虫は、アブラムシを食べているのです。付近のカラスノエンドウを見てみると、ナナホシテントウの幼虫があちこちにいました。カラスノエンドウの汁を吸うマメアブラムシは、ナナホシテントウの幼虫の格好の獲物になっているのでしょう。
 
 アリがいつも、おしりから出す甘露をなめていてくれれば、結果的には用心棒になって、ナナホシテントウの幼虫も、アブラムシには近づきにくいのですが、アリにもいろいろ事情があって、いつもアブラムシのところにいられるとは限りませんから。
 
 また、逆に、アリが100%、アブラムシをがっちり守るということになったらそうなったで、こんどはナナホシテントウがこまってしまいます。
 
 カラスノエンドウの汁を吸うアブラムシがいて、そのアブラムシを食べようとするナナホシテントウがいて、アブラムシはおしりから出る甘露をアリにあたえて守ってもらおうとするけれど、アリも忙しいし、カラスノエンドウからじかに蜜もなめられるので、100%はうまく行かず、アブラムシはしばしばナナホシテントウの幼虫に食べられてしまう。おかげで、アブラムシも、ナナホシテントウも、数のバランスが取れ、うまく生きていける。もちろん、無敵のアリたちも・・・自然はうまくできているものですね。
 
 以上が、ピーピー豆に集まる小さな虫たちの物語でした。
 
 みなさんも、外を歩いているとき、草むらや公園があったら、ちょっとのぞいてみませんか。なんにもないようでも、よく見ると、そこには小さな虫たちがいて、小さな物語があるのです。
 
 そんな、小さな虫たちの物語に興味のある方には、僕が編集を担当して、昨年の12月に刊行した以下の本がオススメ。
  
 
 
  ではまた、お会いしましょう!
 
(編集部 刑部 聖) 

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