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作家が語る「わたしの新刊」

かこさとしが亡くなる1ヶ月半前に編集者に託した「かこさとし童話集」鈴木万里さんインタビュー

24年3月に完結した「かこさとし童話集」(全10巻)は、かこさとしさん自らが編んだ、初の童話集。「動物のおはなし」「日本のむかしばなし」「生活のなかのおはなし」「世界のおはなし」の4つの分類で、挿絵とともに、246のお話が収録されています。本童話集について、各巻の冒頭でも言葉を寄せていただいた、かこさんの長女・鈴木万里さんにお話を伺いました。

「かこさとし童話集」の原稿は、かこさとしさんが亡くなる一ヶ月半前に、編集者に託していただいたものです。万里さんもその場にいらっしゃいましたが、そのときのことを覚えていらっしゃいますか。

はい。ちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが、歴史的な瞬間だと感じて見ておりました。

というのは、その年(2018年)の初めにだるまちゃんシリーズの3作品が同時発売になり、話題になって取材も多くありましたが、そのすぐ後、父の誕生日(3月31日)に向け、3月には御社から『過去六年間を顧みて』出版していただきました。

その頃、父はもう自分の余命がわずかであることを悟っていました。そのあとがきを書きながら、自身の父親のことを思い出し、感慨にふけっていたようです。父親との思い出のある青年期から60年にわたり書きためてきたこの童話集の原稿を編集者さんに託す父の胸中には、言葉で言い表せない様々な思いがあったに違いありません。

残念ながらその場面は取材に来ていたNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」の番組では紹介されませんでした。

段ボールいっぱいの原稿がこうして10冊の本として、まとまりました。出来上がってみていかがでしょうか?

晩年、80歳を過ぎた頃から笑いながら「余命いくばくもないから、自分がいなくなったら、書斎に置いてある原稿を出版社さんに見ていただき、出していただけるものはそのようにお願いしなさい」と、ことあるごとに繰り返していたので、童話集が出来上がりほっとしています。

かこさとしが詰まっている10冊になりました。初めて印刷された作品が7割以上を占め、私が知らなかったお話も非常に多く収録されています。父の人生の3分の2の時間を費やして綴られてきたものをこの童話集として読み、改めて父の心の中や頭の中を少し覗くことができた、そのように感じています。

特に作家デビュー前の脚本「夜の小人」や「トンネルの童話」(7巻収録)などが、初めて印刷されました。このような若い頃のかこさとしの感性を知ることができる貴重な作品をぜひお読みいただきたいと思います。

川崎セツルメントの子どもたちの作文をもとにした「私たちのまちとつるつるめんと」(1953年作・8巻収録)は当時幻灯にしたものですが、その脚本を入れた紙袋には、歴史的価値があって重要なので大切に取り扱うように、とありました。その言葉通り、今となっては昭和の普通の人々の暮らし、子どもたちの心情を知ることができ、父の創作の原点もわかる貴重な資料だと思います。

本の扉には、かこさとしさんのふるさと、福井県の重要無形文化財、越前和紙がつかわれていますね。

お話の内容については、原稿があり、挿絵も9割ほど用意されていましたが、表紙のデザインなどについては全く指示がありませんでした。父が米寿の時(2014年)に『矢村のヤ助』を絵本にして全国の図書館に寄贈した際、御社が編集をしてくださり、前扉に越前和紙を使い、それを大変喜んでいたので今回もそうしたいと考えました。

その前の年、2013年越前市に「かこさとしふるさと絵本館 石石」が開館、市は読書のまち宣言をし、その基調講演を父がしました。その折には、セツルメントの旧友や、古くからのファンの方々と一緒に和紙の里にある紙の神社のお祭りを見せていただき、和紙のことも絵本にしたいと話していました。

ちょうど童話集の編集が始まったばかりの頃、越前市の和紙を漉かれる伝統工芸士さんのお子さんの発想で、廃棄される野菜クズを入れた和紙が誕生したこと聞き、童話集には、その和紙をぜひ使っていただきたいとお願いしたのです。

今回はゴボウとネギが漉き込まれている和紙ですが、サステナブルとかエコという言葉ができる遥か前から、もったいないの精神で裏紙を使ったりしていたかこさとしらしい装丁、生活と結びついたお話にふさわしいものになったと思います。渋くなりがちな表紙とカバーを、絵の色が引き立つ鮮やかで綺麗な配色にデザインしていただいた点にも満足しています。

亡くなる直前まで、子どもたちへの思いを、同じ熱量で持ち続けられていたかこさとしさん。その思いが結実した、まさに集大成ともいえる童話集ですね。

童話集のそこかしこから、かこさとしの声が聞こえてくるようです。

全部ひらがなで書かれた作品は、特に小さい方たち向けです。読み聞かせに適したものがたくさんありますし、読み聞かせ・語り聞かせをする際の大人の方へのお願いのようなものが、かこさとし自身の言葉で5巻の最後にありますので、参考にして活用していただきたいと思います。

その場で、その日の気分で選んで、人間の生の声で語ったり読んだり、そんな時間が少しでもこの童話集から生まれたらと願っています。子どもさんたちにとっても、読む方、語る方にとってもかけがえのない時間になると信じています。

10巻のうち昔話や世界のお話のなかには、残酷な場面がないわけではありません。しかし、お話は時として現実ではなくても、現実以上に真実を伝えます。人間の歴史は、誇れるようなものもありますが、目を覆いたくなるような出来事もあるわけです。それを童話を通して改めて気づき考えることができるので、大人の方々にもお読みいただきたく思っています。

また、父はSDGsという言葉が生まれるずっと前から、福祉のことを考え、心身障害児福祉財団のために多くの紙芝居を作ってきました。(巻末の「各作品について」でお知らせしていますが)1巻の「トントとタンタのたんけん」、2巻「きゅうりばあちゃんとブタネコちゃん」、3巻「すいれんぬまのペリカンたち」「とらのこ とらちゃん」「バンちゃんねずみの大ぼうけん」、5巻「長者やしきのおとろし話」、6巻「それゆけがんばれ われらのがくだん」、8巻「あおくんぽっぽ あかくんぽっぽ」など、この童話集にもそういった作品が収められています。

いじめの問題に関しては、7巻の「死にたくなった ブスかです」、戦争については昔話風に仕立ててありますが、5巻の「こざくら・こさぶろう」という作品もありますし、戦争で家族を亡くした人が登場するお話もあります。

まずは読むならこのお話!というのがありましたら、ぜひ教えてください。

お子さんたちは、気になる挿絵から選んでも面白いかと思います。保育園や幼稚園に通うお子さんには8巻の「ちいちゃんのかえりみち」から始まるお話が、小学校に上がる方には2巻の「きつねの学校 たぬきの学校」のお話が興味深いかもしれませんね。

父は10巻の構成を考えながら各巻のお話の並び方にも配慮していたようです。第1巻の最初はからすのお話。10巻を通してたくさんの動物が登場しますが、10巻に出てくるハイエナのお話は父が大変若い頃に作ったものです。

大人の方には、ぜひ4・5巻の日本の昔話や世界のおはなしの9・10巻と、非常に強いメッセージを込めた3巻の「スピッツベルゲン協会の集まり」をお読みいただけたらと思います。この作品のためにこの童話集がある、と言ってもいいくらい重要な意味を持っています。

10巻最初のポカホンタスのお話は、入植者を助けた逸話が強調されているようですが、父のお話では全く違います。

この10巻には、日本の昔話と同様に人間の醜い部分が描かれている部分があります。洋の東西を問わず各地に古く伝わるお話には、海を越え山を越え時代を超えて語られてきただけの理由があり、人間が持つ困った点も隠さず伝えています。父の創作でもその要素を入れつつ最後は、明るい結末や未来に向けた希望が見えるお話で、全10巻が終わります。

個人的なことで印象に残っていることや思い出などありますか?

2巻の最後にある「ちいさなゆきの山」は幼い頃、父に紙芝居で何回も見せてもらっていたので懐かしいです。9巻にある「ちびくろちゃんとおともだち」は小さい頃、絵の青焼(コピー)を塗り絵のようにして遊んでいたのですが、「母の友」(福音館書店)に掲載したお話だったこと、そのお話の内容を今回はじめて知りました。

一番驚いたのは、6巻の「おとうさんのくつは おおきいね」です。父は私たち子どもの写真をよく撮影していたので、この時も気にも留めなかったのですが、父が玄関に帰ってくる場面は、(なんでこんなところを撮るのだろう)と不思議に思った記憶があり、この童話集を見てようやく長年の謎が解けました!

最後に…

物語絵本や科学絵本も多く著したかこさとしですが、ものごころついた頃から絵を描き、文を書いてきた文学的な要素が挿絵と共に一層味わえるこの童話集は、絵本とは少し違う楽しみ方ができそうです。

一人静かに読むにも、読み聞かせ・語り聞かせにもぴったりです。そんな時間を、片時でもこの童話集と共にもっていただけたら嬉しいというのが、この童話集に寄せる思いでもあり願いでもあります。

本当に長い間にわたり編集をしていただき、またそれを支えてくださった御社の皆様や、印刷製本など、さまざまに関わってくださった多くの方々にこの場をかりて心から御礼申し上げます。

ありがとうございました。

かこさとしさんの積年の思いが詰まった童話集。ぜひ多くの方にお読みいただけたらと思います。このたびは、ありがとうございました!


鈴木万里(すずき・まり)
かこさとしの長女。
神奈川県生まれ、清泉女子大学卒業後、母校清泉女学院中学・高等学校で英語教師として11年間勤務。2003年より加古総合研究所に勤務、2018年より同代表。夫とともに、かこさとし作品の著作権管理のほか、講演活動などをおこなっている。
著作に、松居直氏長女の小風さちさんとの対談集「父の話をしましょうか〜加古さんと松居さん〜」(2020年NPOブックスタート)、『かこさとしと紙芝居ー創作の原点ー』(2021年童心社)、『かこさとし 子どもたちに伝えたかったこと』(2022年平凡社・共著)がある。

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