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作家が語る「わたしの新刊」

ファーブルの世界を精緻な切り絵で表現。『ファーブル昆虫記 名場面集』今森光彦さんインタビュー

今年はジャン=アンリ・ファーブルの生誕200年にあたります。それを記念して刊行される『ファーブル昆虫記 名場面集』(全2巻)で、それぞれの名場面を見事な切り絵で表現してくださった今森光彦さんにインタビューしました。

『ファーブル昆虫記 名場面集』は、『昆虫記』を愛する2人の著者が子どもたちに贈る絶好の入門書です。文章を書いたのは『完訳ファーブル昆虫記』(集英社刊 全10巻・20冊)の翻訳を手がけた奥本大三郎さん。ファーブルの世界を熟知した奥本さんによる生き生きとした『昆虫記』のエピソードを迫力のある切り絵で表現してくれたのは、写真家として著名な今森光彦さんです。

ペーパーカットの作家としても活躍していらっしゃる今森さんは、今回、各巻16の名場面の他にも、登場する昆虫のカットなど、たくさんの切り絵を切ってくださいました。

『ファーブル昆虫記』に対する思いや、その世界を切り絵で表現したいと思った動機について、今森さんにお聞きします。

『ファーブル昆虫記』との出会いはいつでしたか?

 小学校4年生のときには読んでいましたね。虫がすごく好きだったので、親が子ども向けの『昆虫記』を買ってくれたんです。その本でスカラベ(フンコロガシ)のことを知りましたし、シデムシやチョウのことが書かれていたのも覚えています。

 ファーブルって、身近な虫を観察しているんですよ。道ばたで腰をかがめてありふれた虫をじっと見ているから、よく変な人に間違われたりもするんだけど(笑)。普通の人はそんな虫には見向きもしないし、わからない、でも自分が見る目を持っていれば、何かを発見できるというところが『昆虫記』の魅力です。そういう、身近なところに物事の本質があるという価値観には影響を受けたかもしれません。

 その後、わたしは20代の後半からアフリカでスカラベの写真を撮り始めるのですが、そうすると折に触れてファーブルの名前が出てくるんです。フランスの昆虫学者には、スカラベの生態を調べるなんて、そんなことをしているのは、ファーブル以降、おまえが初めてだって(笑)。あんなに面白い昆虫なのに、スカラベは害虫じゃないから、そんな虫を研究しても成果があがらないって言うんですよ。ファーブルには、益虫だから害虫だからなんて区別はなくて、その虫のことを知りたいから研究しているっていうこところが面白いんです。

その『ファーブル昆虫記』の世界を切り絵で表現したいと思われたのは?

 切り絵は自分が感動したことをストレートに表現することができるんです。写真は現実をそのまま写し出すことができますが、どうしても情報量が多くなってしまう。それに対して切り絵の場合は、単純化された線によって、より凝縮した形で、自分がどこに感動したのか、何を見せたいのかをシンプルに伝えることができるんです。

 『ファーブル昆虫記』は全10巻もあって、同じような虫の生態の観察が延々と続きます。好きになってくると、その詳細な描写が面白いところでもある。でも、その描写の連なりの中に、実はいくつもの山場があるんです。その山場を切り絵で見せたいと思いました。切り絵だったら、その場面をドラマチックに表現できるだろうし、そこに、昆虫だけじゃなくて、ファーブルの存在を感じさせられるんじゃないかと。そのイメージがあったので、いつかやってやろうと思っていました。

一瞬の動きをとらえた昆虫の姿とその背後の風景との構成が見事ですね。シルエットで切り出されたファーブルや土地の人々にも味わいがあります。

 例えばこの切り絵は、コブツチスガリというハチがゾウムシの胸に毒針をさすところなんですが、こんな瞬間をとらえた写真なんて誰も撮っていないわけです。でも、わたしは南仏でもこのハチを見ているし、日本にいる近縁種は、もう見つくしていると言ってもいいくらいによく知っています。もちろん触ったこともあるから、ねらった角度から昆虫のしぐさを切り取ることができました。

 上にいるファーブルは、カルパントラスの切り通しでハチの巣を観察しているところです。この切り通しのことも『昆虫記』に出てきます。ファーブルは、カメラが普及し始めた晩年の写真が残っているから、絵でも老人の姿で描かれることが多いのですが、今回の切り絵では、その虫を観察していた当時の年齢のファーブルを描こうとしています。

このカシシギゾウムシの切り絵でも、こんなに小さな人物のシルエットが入るだけで、この土地と時代の雰囲気を感じさせますね。

 実際にね、この虫はこういう感じの場所にいるんですよ。フランスの田舎に行くと、牧草地のまわりに、ドングリの実がなる広葉樹が何本か集まった小さな森が点在しているんです。後ろにいるのは農夫たちです。農作業が終わって、これから家に帰ろうとしているところを切りました。

 フランスにも何度も行って、ファーブルゆかりの地を訪ねましたが、ファーブルが住んでいたセリニャンのあたりは、昔からの風景がそのまま残っているんです。だから、想像ではなくて、実際にその環境を知ったうえで、その場面を切ることができたのはとてもよかったです。

今回は、カットも含めると各巻50点近い切り絵を切っていただき、巻末の解説ページには、ファーブルの生家などの貴重な写真も載せていただいて、おかげで見応えのある本になりました。最後に、虫好きの子どもたちに向けてメッセージがあったらお願いします。

 昆虫の好きな子どもは、きっと図鑑なんかも好きで、そういう本を部屋で楽しんでくれていると思うんだけれど、やっぱりそのあいまに野外に出て、実際にその昆虫が生きている姿を見てほしい、それだけですね、わたしの願いは。

どうもありがとうございました。


今森光彦 いまもりみつひこ
1954年、滋賀県生まれ。自然と人との関わりをテーマに日本の里山環境を撮影するとともに、熱帯雨林から砂漠まで、広く世界の辺境を訪ねる取材を続けている。また自然の造形を鮮やかに切りとるペーパーカットの作家でもある。毎年夏に、昆虫採集が体験できる「今森光彦 里山昆虫教室」を開いている。木村伊兵衛写真賞、土門拳賞、毎日出版文化賞、産経児童出版文化賞大賞、小学館児童出版文化賞などを受賞。おもな作品に『今森光彦 昆虫記』『世界昆虫記』『昆虫4億年の旅』『今森光彦の昆虫教室』『Aurelian 自然と暮らす切り紙の世界』『おじいちゃんは水のにおいがした』『神様の階段』などがある。

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今日の1さつ

まだ字は読めないのですが、可愛らしい絵を見ているだけで楽しそうです。それぞれの動物の暮らしが丁寧に描かれており、細かい家具などのデザインにも動物マークが使われており、沢山の工夫が見られ大人が見ていてもあきません。子供のあだ名が「くーちゃん」なのでプレゼントしてくれたそうです。(2歳・お母さまより)

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