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作家が語る「わたしの新刊」

離れている大切な人に会いたい!『いつかまたあおうね』スージー・リーさんインタビュー

『いつかまたあおうね』(パット・ジトロー・ミラー  文 /スージー・リー 絵/かみやにじ 訳)は、離れている大切な人に会いたい! その気持ちがたっぷり描かれた作品。絵本のなかにちりばめられた窓あきのしかけが遠くに住むふたりをつなぐ、切なくやさしい、宝物のような1冊です。 本作について、絵を担当したスージー・リーさんにお話を伺いました。

この本はアメリカで2022年に出版されました。2019年末からはじまった新型コロナウィルスの流行中に制作された本だと思うのですが、どのような気持ちで絵本にとりくまれましたか。

2018年12月に、はじめて絵本のテキストを受けとりました。

読んでみたら心にすっと入ってきて、すぐに絵を描きたくなりましたが、当時のわたしは別の作品の制作中でした。編集者に事情を説明して、すこし待ってもらいました。

そうしているうちに時間がすぎて、絵やしかけについて、わたしから最初の提案を編集者へ送ったのが2020年6月ごろ……ちょうど新型コロナウィルスの感染が、全世界に本格的に広まった時期に重なっていました。

絵本のテキストを受け取ったときは、「会いたいね」という気持ちをつのらせるおばあちゃんと孫の切ないお話が気に入って、絵を描いてみたいと思ったのですが、作業をはじめた時期と新型コロナウィルスの拡大が重なってしまい、まるで当時の状況のお話のように感じられました。

実際、わたしの子どもたちも、万一のことを考えておじいちゃんやおばあちゃんに会いにいくのを控えていましたし、おたがいに会いたいのに会えなくて、本当にもどかしかったです。

そんな状況だったので、絵を描いているあいだも、ずっと切ない気持ちでいっぱいでした。

でも、その状況を直接描くことはしませんでした。もっと普遍的な意味で、恋しい気持ちがこめられた本になればいいなと思ったんです。

小さなしかけが、たくみにつかわれていますね。このしかけのアイデアはスージーさんからご提案されましたか?

おたがいを恋しく思いながらも、遠く離れていてすぐに会いに行けない理由が、絵本の中に列挙されています。

このもどかしい気持ちをどのように表現しようか、恋しく思うおばあちゃんと子どもの姿をただうまく描くだけでは不十分なのではないか?……と、悩みながらラフスケッチを描いていたとき、ふと、本のページがふたりが会うことをはばむ壁のように感じられたのです。

ならば、ふたりを会わせてあげるには、ページに穴をあけ、窓をあける必要がある……そう思った瞬間、穴あきしかけ(ダイカット)を用いた絵本にしようというアイデアが浮かびました。

実は、以前から穴あきしかけの絵本を作りたいという思いがありました。まさにぴったりのテーマに出会えたのです。わたしはこれまでも本の物性(ものとして絵本)がよくあらわれる絵本を好んできましたし、本の性質が内容の一部になるような作品を作ってきたので、今回の絵本の制作はとてもわくわくしました。

穴あきしかけの絵本は制作過程が複雑なので、出版社との共同作業が不可欠です。そのためわたしは、実際に穴をあけたサンプルを作り、それを動画で撮影して編集者に提案しました。

出版社の製作部からOKが出て、ある程度進んだ段階で、編集者を介してこの本の文を書いたパット(パット・ジトロー・ミラー)に伝えてもらいました。パットは「よくそんなこと思いついたわね!」と言って、とても喜んでくれました。

絵本に登場するふたりの、友だちのような親しさが読んでいてとても愛おしくほほえましいです。巻末にスージーさんご自身のおばあちゃんとの写真が掲載されていますが、おばあちゃんとのエピソードがあればぜひ教えてください。

わたしの祖母はいつも軽い冗談でみんなを笑わせてくれる楽しい人でした。

わたしが子どもの頃、祖母の家に行くと、いつも自分が描いたり作ったりした小さなものを見せてくれましたし、雑誌から切り抜いたきれいな絵を集めてわたしに渡してくれました。祖母からのわたしへのプレゼントでした。重いものを軽くするやり方(祖母独特のユーモアで)、美しいものを好むこと、このふたつを教わったように思います。

わたしも絵本の中の子どものように、いつも祖母に会いたがっていました。祖母の愛はことさらに温かく、格別に強いものでした。

距離や時間はともかく、コロナも収束し自由に人に会えるようになったいま、人と会うということについてスージーさんはどのように思われますか?

新型コロナウィルスがわたしたちに残したものは、傷あとばかりではなかったと思います。おたがいに会いたいときに会えて、ハグしたいときにハグできることがどれほど大切なことか、それに気づかせてくれました。そして何よりも「愛してるよ」っていう表現を、あふれるほどたっぷり伝えあいながら生きていかなければならないんだっていうことを教えてくれました。

気に入っている場面やしかけはどこですか?

主人公がおばあちゃんに、パソコンで顔を合わせる方法を教えてあげるシーンがいちばん好きです。

おばあちゃんがボタンを探そうとして画面から外れてしまい、おばあちゃんのネコだけがまんなかにでんと座ってこっちを向いているシーン。ここを描きながら、ひとりでクスクス笑っていました。

タブレットが置かれている子どもの机の上のこまごまとしたものにもご注目くださいね。この子には、いろんな趣味があるんです。恐竜も好きですが、折り紙でつるを折ったり、ビーズを糸に通してネックレスを作ったりすることも好きなんです。主人公の子どもの性別は特定しないように描きました。メモ帳の上に半分のハートの形のキーホルダーがありますが、もう半分は、おばあちゃんが持っているんですよ。別のページにおばあちゃんのキーホルダーがあるので、ぜひ探してみてください。

ページをめくると、四角い穴は左側に移動し、今度はその四角の穴がおばあちゃんのパソコンの画面になります。当然とはいえ、こんなふうに驚かせてくれるのが、穴あきしかけ絵本の魅力ですね。そこに子どもの姿があらわれるのですが、見えるのは子どものおなかだけ。自分がどれくらい大きくなったかを見せるために、おもいっきり手足をのばしています。「わたしは こんなに おおきくなったんだ」。自分で描いたのですが、とっても気に入っています(笑)。

最後に読者にメッセージがあればお願いします。

日本でこの絵本が出版され、読者のみなさんにお会いできることを、ほんとうにうれしく思っています。

翻訳も多くの時間をかけ、ていねいにしていただいたと聞いています。偕成社の方がたにも深くお礼を申し上げます!

翻訳:かみやにじ


スージー・リー 
韓国のソウル生まれ。ソウル大学卒業後、ロンドン芸術大学のキャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツで修士号を取得。絵本『なみ』と『かげ』が、ニューヨークタイムズ紙のベスト・イラストレイテッド・チルドレンズブックス、『この あかい えほんを ひらいたら』がボストン・グローブ・ホーンブック賞最終候補作に選ばれた。作品に『せん』『なんていいひ』『わたしを 描く』など。2022年国際アンデルセン賞・画家賞受賞。

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「シノダ!」シリーズを卒業した子どもたちに勧めたくて購入しましたが、大人の私が夢中になりました。実在の人物も含め、あれだけ豪華な人々を登場させてあるのだから、これだけで終わらせないでください。イカルとトヨ、2人の少女のこれからや、謎だらけのアキラ、トノサマなど、知りたいことが満載です!(読者の方より)

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