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今週のおすすめ

児童書専門店メルヘンハウス情報誌での人気エッセイをまとめた、保育園で読んだ154冊!『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』

今回ご紹介するのは、名古屋の児童書専門店メルヘンハウスの情報誌「ひろばメルヘン」に長年連載していた人気エッセイを1冊にまとめた、安井素子さんの『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』。

安井さんは、Kaisei webの「絵本の相談室」もご担当いただいているベテランの保育士さんです。実は、3月末で、メルヘンハウスは45年の歴史に幕をおろすことになりました。親しんできた方、まだいったことのない方、最後にぜひおでかけしてほしいな、という気持ちもこめて、今週はこちらの本をご紹介します。

子どもたちとのエピソードが満載! 

 『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』は、保育士として30年以上の経験があり、絵本が大好きな安井素子さんが、たくさんの子どもたちとの絵本にまつわるエピソードを、「0・1・2歳の子どもたちと読んだ絵本」「3歳の子どもたちと読んだ絵本」……など、年齢別に、紹介していく本。どのエピソードにも実際の子どもたちとの日常のなかでの絵本が描かれ、まるでそこに子どもたちと一緒にいるかのように、その絵本の魅力が伝わってきます。

 そのなかから、ひとつのエピソードをここに紹介してみますね。

「せんせー、よしくんがまた外でおしっこした!」
 まさくんがいいにきた。よしくんはこの前おもしろがって、園庭のすみでおしっこをして、となりのクラスの先生にしかられたばかり。そのうしろでよしくんが、うなだれて反省している様子。いいことなのか、わるいことなのか知っているし、しかられることだってちゃんとわかっているのに、なぜか同じ失敗をくりかえしてしまう3歳児。
「よしくん、そんなことすると、しっぽがピューンとはえてくるよ!」
 ちょっと真剣な顔でしかってみた。それをきいた女の子たちが、こういいはじめた。
「そうだよ、いぬみたいにね。」
「うん、ねこみたいにね。」
 子どもたちは、「しっぽ」ときいて、『はけたよはけたよ』を思いだしたらしい。まわりにいた子たちが順番にいった。
「ワンワンってね。」
「ニャーオってね。」
「チューチューってね。」
さっきまで神妙な顔をしていたよしくんまでが、
「モーってね。」
と、うれしそうにいうので、みんなで大わらい。
 こうやって、みんなが同じ気持ちで楽しめる瞬間が、とてもすてきな時間だなあと思って、しかっていたこともすっかり忘れてしまった。すると、はるかちゃんとなっちゃんが、わたしのかわりによしくんにいった。
「でも、お外でおしっこするのはいけないんだよ!」
「ちゃんと、トイレでしなさい!」
 わたしはよしくんをだっこして、「わかった?」ときいた。よしくんは小さくうなずいていたけれど、本当にわかったのかなあ……。

 ここにでてくる『はけたよはけたよ』はこちらの絵本! 一人でパンツをはけないたつくんが、おしりをだしたまま外へ出てしまいます。その姿に動物たちは大わらい! だってしっぽがついていないんですもの。

『はけたよはけたよ』(かんざわとしこ 文/にしまきかやこ 絵)

  1冊1冊の本につき、子どもたちの読み聞かせのシーンも伝えてくれます。

3歳の子どもたちに「たつくんはね、ひとりで パンツが はけないんだよ」と読むと、すぐに、「かんたんだよ。こうすればいいんだよ」と、すわったままパンツをはくまねをしました。動物たちがしっぽをふる場面ではこっそり自分のおしりをさわっている子もいました。

 全部で154冊! ちょっとひとから聞く口コミのような感じで、その本と近しい気持ちにさせてくれるエピソードが、安井さんの子どもたちへの温かな目線でつづられます。

「タイトルは、店主の三輪哲さんがつけてくれました」

 メルヘンハウスにでかけた3月10日。運良く、お近くにお住まいの安井さんにお会いすることができ、メルヘンハウスとのおつきあいについてお話しを伺うことができました(聞けば最近は毎週末いらしているのですって)。ちょうどこちらの本をご紹介するところでした、とお伝えすると「このタイトルは、店主の三輪哲さんがつけてくれたのよ」とのこと。せっかくなので、本と一緒に、お店の前で写真を撮らせていただきました。

3月10日、メルヘンハウスの前で。左が安井さん、右が店主の三輪哲さん。壁のイラストは昨年、高畠純さんが描かれました。

 安井さんがメルヘンハウスを最初に訪れたのは短大生のころ。そのあとしばらくしてから、子どもたちに読む絵本を探しにいくようになってからが深いお付き合いのはじまりだそう。「それから、ぐぐぐーっと三輪さんたちに絵本の世界にひっぱっていってもらったのよ」とうれしそうにお話ししてくださいました。

 連載をはじめたのはちょうど、「ひろばメルヘン」が200号をむかえたとき。毎月、三輪さんと一緒に、来月の号に載せる本を一緒に決めたのだそうです。「これは子どもたちが好きだよね」「あの本にはこんなエピソードがあったね」そんなふうに、毎月、毎月。そして連載が100回目になったときに、三輪さんが「ぜひ本にできたら」ということで、偕成社にお話しを持ってきてくださいました。三輪さんがつけられた『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』というタイトル。当初は、「長くて覚えられないし、プロの保育士としては、私も教えたから、フィフティーフィフティーなのにな」という気持ちがあったそうなのですが、刊行して10年近くがたち、最近になって「それも含めて全部子どもたちあってこそ、だからこのタイトルがいいんだ!」と思うようになったのだそうです。

 そして、こちらが最後の「ひろばメルヘン」427号。

三輪哲さんの「メルヘンハウスとわたし」、2代目の三輪丈太郎さんの「大人と子どもがいっしょに楽しむ」、安井さんが「子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ」、そしてブッククラブを担当されていた松永みどりさんが「ブッククラブを振り返って」というタイトルで寄稿されています。

最後の展示は長新太さん。週末には作家も来店。ぜひ、メルヘンハウスへ!

 2Fがギャラリーになっているメルヘンハウスさん。偕成社でも何度も何度もお世話になりました。最後の展示は、理論社さんのコレクションを中心とした「長新太展」です。週末には絵本作家さんも来店され、サイン会イベントも催されていますよ! ぜひお出かけになって、絵本から読み物まで、何度みても飽きない本棚をぜひぜひじっくりとご覧くださいませ。

児童書専門店メルヘンハウス
住所:名古屋市千種区今池2-3-14
ホームページ:http://www.meruhenhouse.co.jp/

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毎日をまじめにコツコツ生きるトガリネズミを見ていたら、自分の日常ももしかしてこんなに静かな幸せにあふれているのかも、と思えました。海に憧れて拾ったポスターを貼ってみたり、お気に入りのパン屋さんで同じパンを買ったり。駅中の雑踏やカフェでふとトガリネズミを見かけそうな気がします。(40代)

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