『げんきになったよ こりすのリッキ』(竹下文子 文/とりごえまり 絵)は、長い入院生活を経て学校にもどったこりすのリッキが、学校生活で少しずつできることを見つけて、元気になっていくようすを描いた絵本です。本作が生まれたきっかけや、アフターホスピタル(子どもの退院後の社会復帰)、子どもたちが入院する病院のホスピタルアートについて、お話しします。
こども病院の図書室で長年司書をしてらした塚田薫代さんから、アフターホスピタルの話をうかがったときは驚きました。
初めてこのことを知ったときに、同じ衝撃を感じたという塚田さん。退院の日、笑顔で送り出した子が、その後の学校生活などで、苦労しているというお話でした。体力もなくなって、以前はできたことができなくなっていたり、勉強も遅れているので、不安も感じてしまうなかでの学校生活。そんな子どもたちのために、何か力になる本ができないでしょうか?
そうご相談を受けて始まった絵本でした。 その後、竹下文子さんにお話して、リスを主人公にした原稿ができあがり、絵をとりごえまりさんにお願いして、となったのですが、途中考えこむことも多く、結局最初に私が塚田さんからお話を伺ってから、何年もかかって、ようやくこの絵本はできあがりました。
現場にいらした塚田さんの思いに加えて、偶然にも竹下さんもとりごえさんも私も、大きな病気での入院経験がありました。だからいろんな思いが一致した、わかっていたことがあったとも思いました。
いつもの生活を離れなくてはいけない状況になるというのは、大病だけではなく、いろんな場合があるでしょう。しばらく休みたくなることもあるかもしれません。でもいったん離れてしまうと、戻るときには尻込みしてしまったりもします。
以前は簡単にできていたことができなくなって、それができるかな? と挑戦して、それができた時の喜びは大きな大きなものだと思います。3人の思いは一致しました。だから、3人とも一番力が入ったのは、「もう きのぼり できるかな?」と、退院後しばらくして、リッキが木を見上げるシーンでした。
竹下さんは、たった1行に、そんな思い全部を込めてくださいました。とりごえさんからは、ここの絵の色が原画どおりに出るようにと、何度もお願いされ、色校正を繰り返しました。一番大事なシーンですからと。印刷所の方も、応えて力を注いでくれました。
竹下さんはおっしゃいます。
絵本は子どもだけのものではないと、わたしは思っています。 だれでも、いつでも、自由に入ってきて、遊んだり、休んだりできる場所。 小さい人も、大きい人も、いま元気な人も、ちょっと元気じゃない人も、 入院したことがある人も、ない人も……
読み終えて本を閉じたとき、「リッキ、よかったね」って、 笑顔になってもらえますように。
そして、病気とたたかっている人たちが、一日も早くもとの生活に もどれますようにと祈っています。
リッキのように、入院を経験した人にも、友だちにリッキのような子がいる人にも みんなに読んでいただきたい絵本です。
*クイズです!
この絵本のなかには、ずうっとリッキを見守ってくれている誰かがいます。 それは誰でしょう?
*おまけの話
大きな病院の小児科病棟には、ホスピタルアートといって、壁面に楽しい絵が描かれているところがあります。絵本作家さんが活躍されている病院も!
とりごえまりさんは、石川県内のある総合病院に、こんな魅力的な絵を描いていらっしゃいます。
小児科外来の待合室。枠の中の絵は、季節によって変わるみたい!
入院病棟。
病室ドアの丸窓には、リッキがいた?!
こちらは、竹下文子さんとのコンビの絵本『ピン・ポン・バス』でお馴染みの鈴木まもるさん。 東京のある大学病院の小児病棟です。 壁に絵を描く、鈴木まもるさん!
こんな絵があったら、入るのも怖くない?
歯を磨くのも楽しくなりそうですね。
ここに入院していた子が、鈴木さんの講演会にきて、「入院中、絵で、とても嬉しくなった」と言ってくれたこともあったそうです。 子どもたちが怖くなったり、寂しくなったりしないように、あったかい気持ちが伝わるように、おふたりとも心を込めて描いていらっしゃいます。 詳しくは、おふたりのブログをぜひごらんください。
とりごえまりウェブサイト(2017年に記事があります)
※『げんきになったよ こりすのリッキ』について書かれた記事はこちら
鈴木まもる 草刈り薪割り日記(2014年に記事があります)
(編集部 M.C)