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編集部だより

はじまりはおばけではなくウサギでした

2021.10.13

こんにちは。今回は「おばけやさん」シリーズのはじまりのことをお話しします。

 おばけやさんは、おばけを貸し出すお店です。店主は小学生のたもつ。おばけは、大きくなったり小さくなったり、動物になったり、はたまたどこかの誰かにそっくりになったり、おばけならではの力を発揮して、借りに来たお客の困りごとを解決します。大忙しのおばけですが、ふだんはお気に入りのびんの中ですやすや眠る可愛らしいところも。

 お話と絵とコマまんががぎゅっと詰まったこのシリーズは、小学生の皆さんが投票して選ぶ「箕面・世界子どもの本アカデミー賞」の作品賞も受賞。とびきり楽しく読める本です。

 そんな「おばけやさん」がどんなふうに生まれたか、といいますと……。

 作者のおかべりかさんはご自分のことを「まんが家」と言っていました。なので「やまんば妖怪学校」(末吉暁子・作)というお話の絵をお願いしたときに、最後に「おまけまんが」というまんがを描いていただきました。

「やまんば妖怪学校①」(末吉暁子・作)より。

 これがおもしろくって作家の末吉さんも喜んでくださり評判もよく、もっとこういうのが読みたいです、まんがと物語が交互に出てくるような本もいいですねえ……などと打ち合わせの時にぽろりと言いましたら、おかべさんが目をするどくきらっとさせて(おかべさんはいつもいろんなところになにか面白いことがないか目を光らせているためか、とても「目力」が強いかたなのです)あごをひき、じっとわたしの目を見て、「じつは描いてみたいうさぎがいるんです」と、おっしゃいました。

 そのころ、おかべさんとは歩きながらおかしな物を見つけて楽しむ散歩をときどきごいっしょしていたのですが、つぎにご案内いただいたのは、おかべさんの生まれ育った地、浦和でした。おかべさんといっしょに浦和を歩いていると、ひょっと手を挙げてすれちがう人がたくさんいます。「いまのはね、幼稚園の同級生」などおかべさんのはきはきした解説を聞きつつ歩くうち、のどかな神社につきました。調神社と書いて「つきじんじゃ」と読むそこは「つきのみや」という愛称で親しまれているそうで、なんと、そこには、狛犬の代わりにうさぎがいたのです! それがどうも、小さくてかわいらしいと言うよりはどちらかというと大きくておおらかな……正直に言えばちょっとシュールな感じもするうさぎでした。

浦和にある調神社。狛犬の代わりにいるのはシュールなうさぎ!

 初めて対面して息をのむわたしに、おかべさんは旧友を紹介するように神社のあちこちにいるうさぎを教えてくれました。そうして、わたしはとにかくうさぎに圧倒されたまま、「昔、ある作品の中にちょこっと登場させて、どうしても気になっているうさぎ」のことをうかがうにいたったわけです。

 うさぎがどんな性格なのか、なんて名前なのか(のちに決めるのにたいへん時間をかけました)、そして、だれとなかよしなのか……。話すうちにだんだんと、何らかの事情でお店をやっている男の子を助けるたのもしいうさぎ、というのが見えてきました。お店は何にしましょうねえ、おもしろいものを売っているといいですねえ、普通買えない物がそのお店にあるとか……おばけなんてどうでしょう? おばけが買えるのはわくわくするけどでもちょっと売り買いするのも……だったらおばけを貸し出すのは? なんていう話し合いから、おばけを貸し出すお店をひとりでこなすたもつくん(名前はすでにおかべさんの心の中にあったようですぐ決まりました)という男の子が生まれてきました。話しながらおかべさんはスケッチブックにかしゃかしゃっと鉛筆をはしらせていき、どんどん男の子のすがたやお店の外観が決まっていきます。わたしは、もうわくわくが最高潮で思いついたことを言おうにも口が回らないくらいになりながらそれを見つめていました。

 そのうさぎは、「ポンポーソ・ミステリオーソ(はなやかに神秘的にという意味。ながいのでふだんはポンポ)」という名をもらって、おばけやさんに登場します。

 このシリーズ、まだまだ読んでいただきたいつづきがあったのですが、おかべりかさんの急逝により7巻までとなりました。「つづきは?」というお手紙をいただくこともあります。本当に本当に、お届けしたかった! でもこればかりはどうしてもかなわないので、どうか、皆さんの心の中でそれぞれのおばけやさんのつづきを作っていただけたら、と願っています。

 今思い返すと、次はどんなお話にしようかという相談のとき、おかべさんがたいせつにしていたのは、たもつのまわりにいる大人像だったように思えます。いやなことを言うお客もいるし、だれでもどこかしらへんてこなところがある、けれどかならず、見守ってくれている人がいるよ、と。そのことをおかべさんはつよく言っていました。わたしにはこのごろ、ぶっきらぼうでにらみがきくけど、でもじつはとっても細やかな気配りのできる、たよりがいある存在として描かれたうさぎのポンポが、おかべさんの分身のように感じられます。

(編集部・U)

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