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編集部だより

注目! 社会を映す最近の児童文学

2021.07.14

 こんにちは。編集部の佐川です。児童書は、何十年も世代を超えて読み継がれるロングセラーが数多くあることが特徴のひとつです。しかし、現代の作家も日々すぐれた作品を発表し、このごろは難関中学の国語入試問題でも新刊中心に取り上げられるなど注目を集めています。

 編集者として仕事をするなかでも、時代を超える普遍的なテーマ性とともに、今を生きる子どもたちに向けて変化する価値観、課題なども意識して本を作っています。そんなわけで今回は、私が編集した本の中から、ジェンダーバイアスや格差など、現代社会の関心事がテーマとなっている作品をいくつか紹介したいと思います。

家庭内の性役割分業に抗議する『いいたいことがあります!』(魚住直子 作/西村ツチカ 絵)

 主人公の陽菜子は、中学受験をひかえた小学6年生。母親からは勉強も家の手伝いもするよういわれますが、部活でいそがしい兄は家事を免除されています。「わたしだっていそがしいのに」と、もやもやした気持ちを抱いていた陽菜子は、ふしぎな女の子と出会ったのをきっかけに、自分の「いいたいこと」を言葉にしていこうとします。

 母と娘の葛藤を個人的なものとしてだけ描くのではなく、単身赴任中の父、夫の転勤をきっかけに仕事を辞めて今は非正規で働く母など周辺の状況もあわせ、「男性は仕事中心、女性は家庭中心」という性役割分業を問い直している作品です。そして、小学生も「自分のいいたいことをいう」ことで、状況を変えていけるのでは、と希望を描きます。

 どのように家庭を描くかは、小学低学年向けの作品でも見直されていて、『うりぼうウリタ』(おくやまゆか 作)、「ミッチの道ばたコレクション」シリーズ(如月かずさ 作/コマツシンヤ 絵)などでは、家事を担う父親の姿が描かれています。ウリタのお父さんも、ミッチのお父さんも、料理が上手なようですね。

『うりぼうウリタ もりのがっこう』より

ミッチの道ばたコレクションシリーズ『うたうラッパ貝がら』より

縫いもの好きの男子が「好きなこと」を見つめ直す「ぼくのまつり縫い」シリーズ(神戸遥真 作/井田千秋 絵)

 ケガでサッカー部の練習を休んでいた針宮優人は、クラスメイトの糸井さんによって、強引に被服部の助っ人にされてしまいます。こっそり被服部に通う優人でしたが、次第に裁縫が大好きなのに、一方でそれをはずかしいと思う自分の気持ちにむきあっていきます。

 「男子なのにかわいいものが好きなんてヘン」「男の子はスポーツをするもの」など、周囲の言葉や言外の態度にあわせて振る舞ってきた優人は、「社会・文化的に構築された男らしさ/女らしさ」にもとづく偏見「ジェンダー・バイアス」に縛られていたといえるでしょう。そんな主人公が、被服部という居場所を得て、少しずつ自分の好きなことをとりもどしていく姿に、読者も一歩踏み出す勇気をもらえます。

 シリーズ2巻目でテーマは深化し、新入部員とのやりとりをきっかけに、優人自身のなかにもある「ステレオタイプなものの見方」が描かれました。9月には完結編となる3巻目も刊行予定です。

格差社会の恋を描く『野原できみとピクニック』(濱野京子 作)

 裕福な家に生まれ、進学校に通う優弥と、底辺校に通いながら、家計を助けるためアルバイトにいそしむ稀星。お互いの違いにとまどいながらも、しだいに惹かれあっていく2人のラブストーリーです。

 これは、作者の濱野さんと「自分と違う立場の人が見えなくなっているのが今の社会では」と話したのがきっかけでできた作品です。学校、家、職場と、一般的に似た育ちや環境の人が周囲にいて、親しく付き合いやすいので気づきにくいですが、味の好みや言葉遣いから、金銭感覚に生活スタイル、将来像まで、生まれ育った環境によってけっこう違いがあります。高校生たちのピュアな初恋の物語であると同時に、格差の大きい社会で生まれ育ち、違いが多い者同士が、どうやって近づき、互いを理解していけるのかを誠実に描いた作品です。

 ちょっとむずかしそう、と思うかもしれませんが、どれも小学校高学年・中学生から読める作品ばかりです。ニュースで見聞きしているときには遠く感じることも、主人公に感情移入して読む小説だと身近に感じることができます。

 ご紹介した本をはじめ、いろいろなテーマの作品が刊行されているので、ぜひ読んでみてくださいね。

(編集部・佐川)

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