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編集部だより

7色のインクで印刷された絵本『いろいろかえる』(きくちちき 作)

 こんにちは。編集部の広松です。今日は、きくちちきさんの新作絵本『いろいろかえる』を紹介します。なんとこの絵本、7色のインクで印刷されているんです。

 絵本には、緑色、黄色、桃色、青色、橙色の5匹の子がえると、黒い父さんがえるに銀色の母さんがえる、全部で7匹のかえるが登場するのですが、そのかえるの色に全て、それぞれの色の特色インクが使われています。

 通常の印刷はシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックという4つのインクで全ての色を表現しています。たとえば緑色はシアンとイエロー、橙色はマゼンタとイエローの組み合わせで表現するのですが、その再現にはどうしても限界があります。もちろん銀色なんて、その4つのインクの組み合わせでは表現できません。それに対して今回の絵本では、目ざす色にぴったりのインクを7色も使って印刷したというわけです。

 タイトルにもあるように、この絵本のテーマは色です。かえるが1匹ずつ順番に登場するたびに、そのかえるの色が画面に増えていくという趣向になっています。

 これは青いかえるが登場する場面です。大胆な筆づかいで描かれたかえるたちが画面に躍動しています。その黒々とした墨の線を引き立てているのが、それぞれに美しい特色のインクです。

 そして、それまで黒、緑、黄、桃色しかなかった世界に青がくわわったのがこの場面。

 かえるたちが気持ちよさそうですね。

 この場面に使われているのは、黒、緑、黄、桃、青の5色ですが、その原画がどのように描かれているのかというと。

 上から黒、緑、黄、桃、青と、それぞれのインク用に5枚の絵を描いて、それらを印刷機で版画のように刷り重ねて1つの絵を作りだしているというわけです。

 しかも原画は全て墨で描くことになるので、描きたい場面をイメージして、それぞれの色のための原画を描くのがどれだけ大変か想像していただけるでしょうか。きくちさんはこの絵本の完成までに何百枚もの絵を描いてくださいました。

 デジタルツールで手軽にイラストを描いて、それを印刷できるようになった時代に、このようなアナログな手法で絵本を作ったのは、だからこそ伝わるものがあると思うからです。

 絵本は子どもが初めて出会う芸術と言われますが、このような肉筆の黒い線の勢いと、シンプルな色そのものによって描かれたきくちさんの絵からは、絵を描くこと、そして見ることの原初的な喜びを感じていただけるのではないでしょうか。インクをたっぷり使った印刷は、ページに触れればその厚みまで感じられそうです。出したい色をその色のインクで刷るという、ある意味単純な印刷方法であるだけに、デバイスで見るデジタルな画像にはない、物としての本がもつ力が発揮されるのかもしれません。

 そして、このように描かれたかえるたちの、なんといきいきしていることでしょう。見ていると思わず笑みがこぼれるこのユーモラスなカエルたちから、子どもたちが生きることの喜びを受け取ってくれたらと願います。

 橙色のかえるが登場して6色のインクが使われた夕陽の場面、銀色も加わって7枚の原画が使われた満天の星空。その美しさはモニターで表現することがかなわないので、ぜひ実際に本を手にとってご覧ください。本作りの最初から伴走してくださった装丁家のサイトヲヒデユキさんのおかげで、手触りまでも気持ちのよい本になっています。カバーを外して表紙を見るのもお忘れなく。

(編集部・広松)

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