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編集部だより

『死の世界の物語』(偕成社こんな本もありました8)

 
少年少女 謎とふしぎの世界『死の世界の物語』 1971年(昭和46年刊行)
黒沼 健/著
 
偕成社は、今年創業83周年。
このあいだに、数多くの本が刊行されてきた。
そのなかには、時代を反映しながらも、いまとなっては、
すでに忘却のかなたとなった出版物も数多くある。
ここでは、そんな過去の作品から、「知られざる一品」を紹介していこう。
 
 ふしぎな話、こわい話というのは、リアル感が重要である。
「少年少女 謎とふしぎの世界」シリーズは、「現代の進んだ科学でも解明できない奇妙なできごと、ふしぎな事件、神秘な話題を集めた異色のノンフィクション」として、1971年に刊行された。ここで取り上げる『死の世界の物語』は、タイトルのとおり、「死」をテーマにしたエピソードが13話収められている。
 
 
 収録されている話を2つばかり紹介しよう。
 1つめは、20世紀初頭、黒海をのぞむオデッサ湾周辺で流れた奇妙なうわさである。
多くの潜水夫が、海底で亡霊を見たという。それも、ひとりふたりではない。その幽霊は行列となって、潜水夫に迫ってくる。そして、その亡霊たちに出会った潜水夫のなかには、気がおかしくなって、正気にもどらぬまま死にいたる者もいたらしい。
 それから30年の月日が流れ、ところはフロリダのホテル。ある引き上げ作業船の会社を経営するアメリカ人が、ロシア人の老医師から興味深い話を聞く。実は、このアメリカ人の経営者、若いときに潜水夫としてオデッサ湾に潜った経験があり、そのときにあの幽霊たちを目撃していたのだ。
 老医師の話によると、ロシア革命のとき、革命政府の軍隊が二人ずつ鎖で繋がれていた囚人を次々に射殺し、遺体をそのままオデッサ湾に捨てたという。オデッサ湾周囲の化学工場の廃液は、そのまま湾に流れこみ海底にたまってどろの層を作った。その薬品成分と低い水温などの条件が重なって死体は腐らないまま足の鎖が重しとなり、あの怪奇現象が生まれたというのである。
 のちに、多くの遺体がオデッサ湾から引き上げられたらしい。
 
 2つめは、ロシアの人々にとって神のような存在だったレーニンの亡骸の話だ。
 後継者となったスターリンは、レーニンの遺体を埋葬ではなく、ミイラにして赤の広場に祀ることを決める。そして、あのレーニン廟がつくられた。ソ連政府の威信をかけて遂行されたプロジェクトだったが、参観した人びとのあいだに奇妙なうわさが広がっていった。
「レーニンのミイラは本物なのか?」
 ここから著者は、レーニンのミイラに対する科学者たちの「処置」、いまでいうところの「エンバーミング」について語っていく。
 防腐処置はどうされたのか?
 脳組織はどう扱うか?
 永久保存するには、どの方法が最適か?
 
 この本の読者対象は、小学校中学年から中学生となっているが、大人が読んでも十分おもしろい。
 このほかにも、第二次世界大戦中、雪原へ不時着したB25爆撃機の機長が残した日記、ポーランドのクラクフで起こった修道院の身も凍る事件など、当時の知られざる出来事が多数紹介されている。
 子どものときに読んだこのようなエピソードは、大人になってもよくおぼえているものだ。
(編集部 早坂)

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