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作家が語る「わたしの新刊」

川辺でくらす2匹の、何でもないけれど、かけがえのない日々を描いた童話『小雨ぼっこ』

天気雨の日は、「小雨ぼっこ」にぴったり! 仲良しのカメくんとイモリくんの何でもない、幸せな日々を描いた10のお話。2匹のほほえましいやりとりや、川の風景が目のまえに広がるような描写に、読者も隣人のように親しみをもてる童話です。

作者のいけだけいさんは本作がデビュー作。絵を描かれた高畠純さんの絵本教室に通いながら書かれたというお話について、伺いました。


デビュー作ということですが、童話はいつ頃からかきはじめたのですか?

絵本教室に通うなかで、物語性のあるお話を書いてみたいと思ったのです。童話を書きたいなとは、10代後半の頃からずっと考えていました。

子どもの頃はあまり本を読む方じゃありませんでした。保育士を目指したことが、大人になってから児童書を数多く読むようになったきっかけの一つです。また思春期に児童文学作家といわれる人や、その方の作品に数多く出会ったことが、自分でも書いてみたいと思う動機につながっていると思います。

このお話はどのように生まれたのですか?

物語としてのお話を作りたいと思うようになってからは、四六時中頭のどこかで考えていました。それはいまも同じです。最初に生まれてきたのは「カメくんのおでかけ」で、県立図書館から家へ帰る車の運転中、鼻歌を歌っている時突如降ってきた感じです。あわてて路肩に車を止めて、スマートフォンのメモに物語の流れを10分ほどで箇条書きに書き残したのが元になっています。

なぜカメが主人公なのですか?

モデルというわけではないのですが、カメを2匹飼ってます。ときどき眺めて癒されてます。

いけださんちのカメたちの、日向ぼっこ

あえてモデルは? といわれると、多分自分なんだと思います。もしくは自分はこうありたいなとか。いろいろなことがあっても、ケセラセラって細かいことはあまり気にせずマイペースでポジティブでいたいというか……そう思うだけでほんとうはとってもネガティブな方なのですが。

『たのしい川べ』(岩波書店)にも通ずる、和やかな世界で、気持ちがおだやかになるお話でした。いけださんはどのような童話に親しんでこられましたか? お好きなものがあれば教えてください。

あまんきみこさんの「白いぼうし」という作品が教科書に掲載されていて、授業の中で、その後のことを考えるという課題がありました。話をふくらます作業がとても面白かったことを、いまでも昨日のことのように覚えています。

年代的にテレビっ子の走りだと思いますが、小学5、6年生のとき、推理小説の好きな友人の影響でルパンやホームズ、そしておまけにその友人が作った推理話までよく読まされていました。中学生になり、テレビっ子の僕は、その頃から始まったNHKの少年ドラマシリーズにはまり、ジュブナイル小説を読んでいた時期もあります。後に影響を受け、保育士を目指すきっかけとなる灰谷健次郎さんの『兎の眼』(理論社)も、最初の出会いは少年ドラマシリーズでした。

大人になってから、内外の童話や絵本を読むようになり、世界観や登場人物の個性が大好きなアーノルド・ローベルや シド・ホフ、そしてミヒャエル・エンデなどの本に出会いました。前出の灰谷健次郎さん、今江祥智さん、上野暸さん、山下明生さんの本などは、いまでもときどき取りだして読んで、当初読んだ時の想いとの違いに自分自身驚いたりしています。

安房直子さん、武鹿悦子さん、あまんきみこさんの書かれるお話も大好きです。……話しだすとキリがなくなってきました。子どもの頃もっと読んでりゃよかったと、いまさらながら後悔しています。

川を舞台にしたお話です。いけださんは特別な、川や川の生きものたちとの思い出はありますか?

僕は琵琶湖の近くで育ちました。生まれ育った土地柄もあるのでしょうか。山に囲まれ琵琶湖に向かって放射状に川の流れる場所ですから、子どもの頃から小川は身近にありました。通学も川沿いの堤防を上って歩いていってました。

いけださんが小さい頃から遊んでいた川

両親の里も大小の川が流れているところでしたし、いま住んでいる家も小川沿いで、私の部屋から窓を開けると下に川が見えます。暖かくなると子どもたちが虫網を持って、川の魚やカエル、虫などを追いかけています。

また、現在のように河川が整備されてない時代の災害などの話もよく聞かされてきましたから、特別というよりも、生活の営みの中に、必ず川が存在していたのだと思います。問われて初めてそのことに気づきました。

高畠さんのイラストもとてもかわいらしく、このお話にぴったりですね。高畠さんとは絵を描いていただくにあたってお話をされたのですか?

高畠先生との出会いは、絵本教室に通うことになってですが、実は高畠先生の絵との出会いは私が初めて保育園に勤めたその日でした。

新しく開園したばかりの保育園で、とある出版社から開園祝いに送られて来たのが高畠先生のシルクスクリーンだったのです。まだ高畠先生がデビューされた頃だったと思いますが、瞬時にその絵が気に入り、僕は書店へ行って高畠さんの絵本『ピースランド』(絵本館)を買いました。もうかれこれ35年以上前の話です。この話は、高畠先生にもまだしていません。

もう、10年近く師事しているものですから、高畠先生に読んでいただいて、高畠先生の解釈で描いていただけたらそれでいいと思っていました。何よりカメくんとイモリくん、そして沢の仲間たちの話は、まだどなたに挿絵を描いていただくかわからないうちから、高畠先生の絵をイメージして書いていましたから。それが現実となって(!)、できあがってきた絵は、私の想像を遥かに超えるものでした。

保育士さんをなさっていたとのこと。子どもたちと過ごされたことが、この作品を書くにあたって何か意味をもちましたか?

最初に勤めた保育園での経験が、自分にはその後にずいぶん影響しているなと思うことがあります。六甲山の裾野で環境にも恵まれていて、とても自然体験を大切にする保育園でした。いまじゃとてもできないことを子どもたちと共に経験させてもらいました。

いま思うと保育士としては、とても精神的にも技術的にも未熟な上、ただ生意気なだけで、子どもたちと一緒に経験や成長させてもらった時間でした。そのときの自然体験はこの話にすごく生きていると思います。川で泳いだりもしましたしね。何より子どもたちと一緒にいることがとても楽しかったし、一体感がありました。

具体的な部分は内緒です。それはある意味僕の宝物ですから。でも多分読んでもらえるとわかっちゃうところがあるかもしれません。

ありがとうございました!


いけだけい

1962年、滋賀県に生まれる。元保育士。神戸市の社会福祉法人立保育園の開園メンバーとして働いた後、滋賀県の公私立保育園で保育士となる。京都のインターナショナルアカデミー絵本教室(現在は閉校)及び、etoteえほん教室で創作を学ぶ。第32回ニッサン童話と絵本のグランプリ、童話の部優秀賞受賞。本作はその作品に加筆して、童話集としてまとめたものでデビュー作となる。現在は絵を描きつつ、物語の世界に挑戦することに力を注いでいる。

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