12月に入りましたね。編集部には、毎年恒例のツリーやお菓子の家が飾られています。みなさんのおうちはいかがですか?
この時期になるといつも、わが家の子どもたちは、ほしいものを書いたサンタさんあての手紙を窓の外に向けて貼りつけ、母(私)にこういわれていました。
「小人さんがこっそり見にきてるから、いい子にしてようね~」
なぜなら、絵本『サンタクロースと小人たち』に、こんなふうに書いてあるからです。
「秋も おわりになると、いちばんちいさくて すばしっこい小人たちが、どこによい子がいるか 調査にでかけます。だれにも みつからないように こっそり 子どもたちを しらべます。」
『サンタクロースと小人たち』は、1982年の刊行以来ずっと愛されつづけてきたロングセラー絵本です。
そして、今年、おなじサンタ村を舞台にした『サンタクロースの冬やすみ』が出ました。作者は、フィンランドの国民的絵本作家マウリ・クンナスさんです。
長年クンナスさんの絵本を訳されてきた稲垣美晴さんに、作者のことや今回の新刊について、お話をうかがいました。
Q1 『サンタクロースと小人たち』が出てから約40年がたちましたが、稲垣さんがマウリ・クンナスさんの絵本と出会った経緯はどんなものでしたか?
1980年、フィンランドから帰ってきて留学体験記『フィンランド語は猫の言葉』を書きました。これは、大人向けのエッセイだったので、子どもたちのためにも何かしたいと思い、フィンランド人の友だちに、「フィンランドのことがよくわかる絵本を送ってほしい」と手紙を送ったのです。そのときに届いたのが、当時まだ新人だったマウリ・クンナスの「わんわん丘」シリーズ1冊目でした。マウリの本は絵がとても楽しくて、私はすっかり気に入りました。
でも、この本はフィンランドの子どもたちのために作られた、昔の暮らしを紹介する内容で、日本での出版が難しく、別の作品も送ってもらいました。それが彼のデビュー作『フィンランドの小人たちトントゥ』です。フィンランドには、それぞれの建物に守り神の小人が住んでいるという伝説があります。この本は、馬小屋、水車小屋、サウナ小屋などに住む小人たちの楽しいお話集です。
フィンランドの出版社経由でマウリを紹介してもらい、文通をはじめました。私が「あなたの絵本を翻訳して日本で紹介したい」というと、彼はとても喜んでくれました。
今でこそマウリ・クンナスの絵本は世界中で翻訳されていますが、『フィンランドの小人たちトントゥ』の日本語訳は、その記念すべき第1号となったのです。
『サンタクロースと小人たち』はマウリの3作目です。小人伝説を調べたあと、そのつながりとして、小人とサンタについて書きたくなったのだそうです。日本語版は、1982年に出版されました。これまでに、私はマウリの本を20冊訳しました。
フィンランドに行くと、クンナス家を訪ねて、家族ぐるみのつきあいが続いています。最初に会ったときは、奥さんのタルヤと二人暮らしでしたが、それから娘が二人生まれ、今では孫娘も二人います。
Q2 『サンタクロースと小人たち』が長年、愛されている理由はなんでしょう?
子どもたちにとってサンタクロースは夢をあたえてくれる存在です。みんな、サンタのことが大好きですが、その存在は謎に包まれています。
サンタさんはだれとどこに住んでいるの?
何を食べているの?
おもちゃはサンタさんが作るの?
プレゼントのお願いはどうしてわかるの?
どうやって世界中の子どもたちにプレゼントを届けるの?
子どもたちの疑問すべてにこたえてくれるのが、『サンタクロースと小人たち』なのだと思います。
この本にはマウリの絵の魅力がつまっています。楽しいし、温かいし、ユーモアがあります。
1ページ1ページ、細部に至るまで遊びが凝らしてあるので、何度開いても必ず新しい発見があり、一冊の中の楽しさの量ははかりしれません。子どもたちにとってもそうですし、読み聞かせをするお父さんお母さんもワクワクするのではないでしょうか。
40年前、『サンタクロースと小人たち』はフランクフルトのブックフェアで、原書が取り合いになるほど人気が出て、翌年、結局12カ国16万部同時発売ということになりました。偕成社もこの共同出版に参加し、以後この本は日本でロングセラーです。「キリスト教国ではない日本で、ずっと人気があるのは不思議だ」と、作者自身もびっくりしています。
マウリ・クンナスの絵本は世界中で愛読され、これまで36カ国で刊行されましたが、彼のユーモアを早くから受け入れたのは、イギリス、アメリカ、イタリア、日本だそうです。
国をこえて、子どもも大人も惹きつける普遍的な魅力があるからこそ、いつまでも色あせない絵本なのだと思います。
Q3 フィンランドでは、『サンタクロースと小人たち』はどんな存在ですか? コルバトントリやサンタの村は、ほんとうにあるのでしょうか?
マウリがこんなことをいっていました。
「サンタクロースって難しいんだよ。だれの心の中にも深く根ざしたサンタっているからね。ただ、僕のわがままをどうしても押しとおしたいことが一つあったんだ。それはね、サンタクロースがフィンランド人だってこと。だから、僕の本では、サンタはフィンランドのラップランドに住んでいるんだ」
フィンランド人に「サンタはどこに住んでいるの?」と尋ねると、大人も子どもも「コルバトントリ」と答えます。コルバトントリはロシアとの国境近くにある実在の山です。コルバは耳のこと、トントリはラップランドによくあるなだらかな山のこと。つまり「耳の山」です。
1927年の12月、フィンランドのラジオ・パーソナリティ、マルクスおじさんが、「サンタクロースは小人たちといっしょにコルバトントリに住んでいて、彼らには特別な耳があるから、子どもたちのプレゼントのお願いが聞こえる」と話したことから、みんなが信じるようになりました。
フィンランド人は、サンタが住んでいるのはコルバトントリと知っていましたが、そこでどんな生活をしているのか、絵でくわしく教えてくれたのが『サンタクロースと小人たち』です。この本はフィンランド人にとって、いつまでも心に残る名作として今でも読みつがれています。
Q4 実際にお会いになったクンナスさんは、どんな方ですか?
マウリは、優しくてまじめな人です。
彼は「子どもの本で大切なのは知識とユーモア」とよくいうのですが、まあ、いろいろなことをよく調べます。
昔の建物や道具など、町で見られないものは、小学校の先生をしている奥さんのタルヤと夏休みに田舎へ行き、野外博物館などで調べたりスケッチしたりしていました。マウリの描く古い丸太小屋など、びっくりするほど正確だと、日本の建築の先生がおっしゃっていました。
マウリのお父様は木工家で、おもちゃを作っていたそうです。お父様手づくりの木馬に乗って楽しそうに遊んでいる子ども時代の写真を見たことがあります。「昔は夏休みが3ヶ月あったから、すごくよかった!」といっていました。
「子どものころは、すごくおとなしかったんだ。郵便屋さんがきても、こわくてかくれてしまうような子だった。サンタクロースがきたときなんか、ベッドの下にかくれて、みんなに呼ばれても、どうしても出ていけなかった。だから、サンタの足しか見てないんだ。あのとき、サンタの姿を見ていれば、大人になって絵を描くときに困らなかっただろうね」と、笑っていました。
マウリが子どものころは、あまりいい絵本がなかったので、自分でノートに絵を描いて小型絵本を作ったそうです。スキーをはいたサンタクロースがまっさかさまに頭を雪につっこみ、足をバタバタさせているところが最初のページの挿絵。子どものころから絵本作家の素質があったんですね。
趣味は音楽。ビートルズが大好きで、本も作ったほどです。子どものころからの仲間とバンドを組んでいて、今でもギターの演奏を楽しんでいます。
Q5 新作絵本『サンタクロースの冬やすみ』で、クンナスさんらしいところやフィンランドらしいところは、どんなところでしょう?
彼の絵本は、だれも傷つけない愛情の世界、思わず吹きだしてしまうユーモアの世界ですね。相変わらず楽しくて幸せに満ちた本だと思います。サンタクロースと奥さんの夫婦仲がいいのも、ほほえましいです。サンタクロースが赤ずきんちゃんの劇に出るところがありますが、最後をハチャメチャに終わらせるあたり、いつまでも少年の心を持つマウリの面目躍如だなと思いました。
マウリは絵本の仕事のほかに、フィンランド最大の日刊紙に風刺画を描いていたことがあります。だから、社会の出来事に敏感なんですね。新年の目標をかたづけることに決めた小人の部屋に、日本人のかたづけの本があったり……。大人にも、ワクワクするような発見があります。
サンタクロースと小人たちが外のお風呂に入り、体をあたためたあと、雪の上をころがったり、凍りついた湖に穴をあけて水の中に入ったりします。寒い冬なのにどうして? と思いますが、フィンランドでは、サウナで体をあたためたあと、冬でも、湖に飛びこむ人がいるのです。
Q6 今回、翻訳で苦労されたところや、工夫された点はありますか?
原書には、キリスト教に関わる説明が随所にありました。でも、日本の子どもたちには難しすぎるので、宗教行事としてのクリスマスではなく、サンタ村のお話としてまとめました。サンタ村の冬休みは、ちょうど日本の学校や幼稚園の冬休みと同じころです。その点、親しみが持てますね。
クリスマスのお菓子や飾りの作り方などは、『サンタクロースと小人たち』にくわしく出ているので、2冊の本でじっくりサンタ村の生活を楽しんでいただけたらと思います。
(編集部 W)