icon_twitter_01 icon_facebook_01 icon_youtube_01 icon_hatena_01 icon_line_01 icon_pocket_01 icon_arrow_01_r

今週のおすすめ

8月、歴史と向きあう季節。戦争・原爆を考える本4冊

8月15日は、終戦の日。そして8月6日、9日は、広島・長崎に原爆が投下された日です。毎年8月になると、多くの人が「戦争と平和」について考えます。
偕成社でも、戦争と平和をテーマにした本を多数刊行しています。きょうはその中から、それぞれちがう視点からえがかれた4冊をご紹介します。


原爆にあった、ちいさな女の子。絵本『まちんと』(松谷みよ子 作/司修 絵)

 1冊目は、松谷みよ子さんの絵本『まちんと』です。

 原爆にあったちいさな女の子は、トマトを口に入れてもらうと、「まちんと、まちんと(もっと、もっと)」と欲しがりました。母親はトマトを探しに町に出ますが、焼けおちた町にトマトはなく、戻ってみると女の子は息をひきとっていました。

 そして女の子は鳥になり、今も、「まちんと、まちんと」となきながら飛んでいるのです––––
 
 心にささる言葉、司修さんが魂をこめて描いた絵が、その凄惨さや悲しさを、子どもにも大人にも強く訴えかけます。
 
 松谷みよ子さんは、刊行時このように書かれています。
 (前略)はっと気がつきました。戦争を語りつぐということは説明することではないのだと。ともすれば私たちは説明し、教えようとしているのではないでしょうか。実感の重みこそ求められているのに。
 そのあと、文庫にきた小さな子にきかれました。わたしたちにわかる戦争の本ないの? なるほどと思いました。
 こうした中からこの絵本は生まれました。その重みからしたたる実感をと願いながら。

広島で被爆したのち、アメリカに渡った女性の半生を追う『シゲコ! ヒロシマから海をわたって』(菅聖子 著)

 2冊目はノンフィクション。笹森恵子しげこさんの半生を紹介する『シゲコ! ヒロシマから海をわたって』です。
 

 シゲコが原爆にあったのは、13歳のとき。ひどいやけどを負い、指がくっつき、頰は皮膚がはがれてピンク色になり、くちびるはめくれ上がり、と、その体には辛いあとが残りました。
 それでも、シゲコはそうした悲しみに負けずに前へ進みます。外出するとき、人に見られて傷つかないようにと、家族はマスクをするようシゲコに言いましたが、「かくしとったら、一生かくさんといけんようになる」と、思いきってマスクを外しました。たくさんの人に見られ、その視線に傷つけられながらも、シゲコは自分の顔を隠しませんでした。
 
 シゲコはその後、縁あって、やけどをアメリカで治療するプロジェクトのメンバーとなり、渡米します。アメリカで彼女たちは「ヒロシマ・ガールズ」とよばれ、歓待をうけました。プロジェクトを進めたノーマン・カズンズ氏との交流から、のちに再びアメリカに行って看護師を目指します。
 
 80歳をこえた現在もアメリカに住んでいる恵子さん。各地で戦争や原爆を語りつぐ活動を続けています。アメリカにいると、「原爆は戦争をやめるために必要だった」という考えの人に会うこともあります。それでも、たくさんの人々、とりわけ子どもたちとふれあうとき、彼女には強いエネルギーがわくのです。
 力強く、あかるく生きる恵子さんから、パワーをもらえる一冊です。

アメリカの高校生による、原子爆弾の是非のディベートを描く『ある晴れた夏の朝』(小手鞠るい 著/タムラフキコ イラスト)

 3冊目は、先月発売されたばかりの新刊『ある晴れた夏の朝』。アメリカ在住の小手鞠るいさんによる読み物です。

 アメリカの高校に通う15歳のメイは、先輩たちから、夏休みにおこなわれる公開討論会への参加を求められます。テーマは、広島・長崎に落とされた原子爆弾の是非について。肯定派、否定派、それぞれのメンバーは、日系人のメイのほか、アイルランド系、中国系、ユダヤ系、アフリカ系と、そのルーツはさまざま。メイは、逡巡しながらも、このイベントに参加することを決めます。そしてそれが、彼女の人生を変える大きなきっかけになります。
 
 物語は、肯定派・否定派が交代に発表を行う討論形式ですすみます。重たいテーマでありながらとても読みやすく、同時に、原爆に対するさまざまな視点に立って深く考えることもできます。
 
★作者の小手鞠るいさんのインタビュー記事も公開しています。
作家が語る「わたしの新刊」
 

今も広島に残る、原爆をたえた木々を学ぶ。『広島の木に会いにいく』(石田優子 著)

 4冊目は、人ではなく「木」から原爆を考えるノンフィクション読み物、『広島の木に会いにいく』です。

 いま広島は、ゆたかな海と山に囲まれ、たくさんの人がにぎやかに暮らす街になっています。街の中にはたくさんの木々があり、その暮らしに寄りそっています。その木の一部は、実は、原爆をたえて生き続ける「被爆樹木」です。
 原爆が投下されたとき、その幹や葉で人々を守り、その後も木陰でつかのま休める場所になったり、被爆をまぬがれたところから新しい芽を出すことで希望を与えたりと、さまざまな面で人々を支えてきた被爆樹木。著者の石田優子さんは、木の声を聞こうと現在の広島の街を歩きます。
 
 被爆樹木にはプレートがついていて、その木が被爆樹木であること、種類、爆心地からの距離、かんたんな説明が書いてあります。木の根を見ると、爆心地側の根のはり方が少なく、反対側に多く根がはっているのがわかったりします。1本1本の木に、原爆の記憶、そのときから現在までの歴史が現れているのです。戦争を経験した方が亡くなられたあとも、木がその歴史を伝えてくれる……被爆樹木は、戦争の遺物という役割も担っています。
 
 長年被爆樹木を見守ってきた樹木医の堀口力さんのほか、被爆者の方々など、木に思いを寄せるさまざまな人々も登場します。
 
 巻末には「被爆樹木マップ」が掲載されています。実際に足を運び、木と向き合うことができます。ちがった視点から戦争や原爆を考えるきっかけになる一冊です。
 
 
いかがでしたでしょうか? それぞれちがったアプローチで戦争や原爆について考えることができる4冊。合わせて読むと、よりこのテーマへの理解が深まるかもしれません。この夏、ぜひお手にとってみてくださいね。
 

この記事に出てきた本

バックナンバー

今日の1さつ

真っ黒な表紙にこれ以上ない直截な言葉「なぜ戦争はよくないか」の表題にひかれ、手にとりました。ページを繰ると、あたたかな色彩で日常のなんでもない幸せな生活が描かれていて胸もホッコリ。それが理不尽な「戦争」によって、次々と破壊されていく様が、現在のガザやイスラエルと重なります。(70代)

pickup

new!新しい記事を読む