「絵本の編集者の宝物とは、なにか?」と問われたら、即答しましょう、それはダミーです!
ダミーとは、作家さんや画家さんの御原稿やラフスケッチを仮レイアウトして、かんたんに本の形にしたもの。それをパラパラと何度もめくって読みながら、話の流れはスムーズか、展開に説得力があるか、絵の構図は効果的か、などなどを検討します。
11月の新刊『ちいさなトガリネズミ』でももちろん、作家のみやこしあきこさんから、すばらしいダミーをいただきました。私の秘蔵品として引き出しにしまいこんでいるばかりではもったいないので、この機会にちょっとお披露目させてください。
さあ並べてみました! かぞえてみると、トガリネズミのダミーは7冊ありました。
ちなみに、私がこれまで担当した本で最多ダミー数を記録したのは、みやこしさんと最初に作った絵本『もりのおくのおちゃかいへ』です。みやこしさんの絵はどれもバッチリ「キマる」ので、つい欲が出て、「こういうパターンも見てみたい」とリクエストしてしまい、結果的に、積んだら崩れるほどのダミー量になりました。言うは易しのそんなワガママにも嫌な顔ひとつせず、次の打ち合わせで必ずこちらの予想を超えるダミーを持ってきてくださるみやこしさん。いつもホンワリ柔らかな人ですが、いかにものすごいガッツの持ち主かということがおわかりいただけるかと思います。
けっきょく何冊作っていただいたのか、怖くて私はかぞえていません(写真はみやこしさんご提供)。
さて。ダミーの変遷を見ると、1冊の絵本ができていく過程がよく分かります。
たとえば、これはトガリネズミ第2話のクライマックスシーン前後の3見開き。下の3コマは最初期の案、上の3コマはガラリと変わったその次の案で、最終的にはこちらの案が採用されました。
でも、ベッドに腰掛けて思いを馳せるトガリネズミも、キュンと来ますね。
これらも幻の場面です。物語上カットされましたが、ああ〜かわいい……!
判型や本の大きさも、みやこしさんがいろいろ検討してくださいました。
トガリネズミの部屋も最終のものとは違っていますので、本を買ってくださった方は、ぜひ見比べてみてください。
それから、今回はいままでの絵本と違って3つの話が入った絵童話なので、目次や章とびらがあります。
「ここは、本編と別進行で遊べるページですね〜どうしましょうか!?」と、当初からデザイナーさんも含めた3人でワクワクしていました。こんなカラーページも素敵でしたね。
お話の展開がかたまってくると、今度はページをめくったときの色バランスを検討するため、ざっと彩色したラフもいただきました。でも、絵についてはみやこしさんにお任せするのが一番なので、私は内容に矛盾がないかどうかなどを、最終点検します。
そして、このあと、いよいよ本描きにとりかかっていただくのです。
こうしてダミーをあとから見返すと、「こんな場面もあったんだなぁ」と思い出して新鮮です。結果的にカットされた絵をもし生かしていたら、また別の展開のお話ができたのかもしれない……そう、ダミーを作っている段階では、可能性が無限大。
そういう中から、きっと辿りつけるはずの最適解を求めて、手さぐりで一本の筋をつかもうと試行錯誤する。その過程を、作家さんのかたわらで逐一見られるのが、編集者という仕事の醍醐味です。それが形として残るのがダミーであり、そんなわけで宝物なのです。
私の机の横には、入社してから約20年分のダミーが引き出しにギッシリ詰まったチェストがあります。ギッシリすぎて、引き出すとチェスト自体が前に傾くほどです。
いずれ定年を迎えるとき、どうしたら良いでしょうか?
(編集部 矢作)