大変ごぶさたしております。編集部の刑部です。
今朝も、会社のある市ヶ谷駅のひとつ前の四谷駅で降りて、外濠公園を歩いて会社に来ましたが……ラッキー! 羽化したてのセミに出会えました。
ありゃ〜なんとキレイな翡翠色! ミンミンゼミですね。羽化の時間帯としては、ちょっと遅い。もう朝9時。この時間にまだこんな状態だと、カラスに食べられてしまう……ちょっと心配でしたが、ずっと見ているわけにもいきません。
そんなセミの安否まで心配するという、生き物大好きな僕ですが、今年2022年は、生き物の写真絵本を2冊も出せることになりました。ウレシイ!
1冊めは7月初旬に刊行になった、この『お山のライチョウ』。
2冊めは9月に刊行予定、この『海に生きる! ウミガメの花子』。
さて、その『お山のライチョウ』では、刊行の約1か月前の6月初旬、著者の戸塚学さんといっしょに、「印刷立ち会い」に行ってきました。今回の「編集部だより」では、その「印刷立ち会い」について、少しですが内容をお教えします。本に興味のある人には、生き物ネタに負けないぐらいオモシロイので、ぜひ読んでくださいね。
著者と編集者の「最後のワガママ」を伝える「印刷立ち会い」とは?
『お山のライチョウ』の印刷立ち会いの日は、あいにくの雨でした。場所は神奈川県川崎市の某印刷所。川崎駅からバスに乗り、10数分ぐらいのところにあるバス停で下りて、数分歩いたところにあります。
僕と戸塚さんが到着すると、少し道に迷ったせいか(ほんとうは結構20分ぐらい迷いましたが)、すでに本のカバーの試し刷りが出ていました。本の初版は何千部とかなので、印刷するのも何千枚なのですが、何千部印刷したあとで「あ〜、やっぱり色味が変だったあ〜」とかならないよう、かならず最初に試し刷りをして、色を確認します。
色を確認、というのは、色校正を何回か出し、この色味でOK! となった「校了紙」の色味に合っているかどうかをチェックする作業で、印刷所の方にお任せすることもありますが、絵本や写真絵本のように色合いを重視する本では、編集者や著者、場合によってはデザイナーも、印刷所に行って、最初に出す試し刷りを見て、意見を言って、それを印刷所の方から印刷機のオペレータに伝えてもらい、試し刷りに反映してもらいます。
このことを指して「印刷立ち会い」といいます。それで、その試し刷りが、これでOK! というところまで行ったら、いよいよ何千部を印刷するのです。以上、出版業界用語「印刷立ち会い」の解説でした。
印刷立ち会いをする目的はもちろん、色味を重視する本だから、人任せにできないから……というのもありますが、じつは試し刷りを見て、その試し刷りが校了紙に忠実に色味が出ていようとも、やっぱりここの色をもっとこうしたい! みたいな「最後のワガママ」を言うため、ということでもあります。
今の印刷機はある意味、プリンター同様に、高度にデジタルでコントロールできるように出来ていて、その場である程度、色味を変えてもらうことができます。その意味で、印刷立ち会いは、著者や編集者の「最後のワガママ」であると同時に「最後のガンバリ」あるいは「最後のネバリ」でもあるのです。
PDさんのおかげで、カバーの試し刷りは上々の仕上がりです!
さて、前置きが長くなりましたが、さっそく印刷立ち会いの様子を紹介しましょう。これが、カバーの試し刷りです。
おや、戸塚さん。まずはさっそくSNSに上げるためにスマホで撮影ですか。じゃあ、そろそろ見ましょうか。
あれっ? なんだか下半分がテカっているような? と思った方は鋭い。そうなんです。下半分には、印刷終了後、カバーに貼り付け加工をする「P.P.」(polypropylene film=ポリプロピレン・フィルム)を仮に貼って、製本後最終仕上がりの色味を確認しているのです。
見ての通り、P.P.を貼ったほうが、色味が濃くなるでしょ? 濃くなるというか、正確には、彩度が上がって鮮やかに見える。ですのでP.P.を貼ることになっている本であれば、印刷自体であまり鮮やかにしてしまうと、貼ったときにハデになりすぎるので注意です……。
ともかくもカバーはOK。印刷所の「PD」(printing director=プリンティング・ディレクター)さんが、我々が到着する前に何回か試し刷りをくりかえしてくださっていたので、そもそもがいいレベルで上がっていたのです。
カバーは、色味がOKになったので、印刷機で何千部の印刷に入りました! さあ、次は、カバーの色味に合わせて表紙の試し刷りと、本文の試し刷りを、こんな感じでしばらく待ちます。
手前にいるのが先ほども登場した著者の戸塚さん、奥にいるのがPDさんですが……もう気づいていらっしゃる方も多いかもしれませんが……写真のどこにも「印刷機」は写っていないし、なんか狭そうな部屋? そこ、いったいどこ?
はい、ここは印刷所ですが、2階にある「立ち会い室」です。
肝心の印刷機は、1階の広〜いフロアに、ちょっとした長〜いトラックぐらいの大きさの物が、ズラ〜っと並んでいるのですが、「印刷立ち会い」においては、著者や編集者は、印刷機のところに行くのではなく、このような立ち会い室で試し刷りを見る、という形を取ることがほとんどです。
1時間以上待って……さあ、表紙と本文の1枚め(1折め)が出てきました! ちなみに本文の分は、裏面も印刷されていますよ。
表紙のほうはOKそうなので、本文の試し刷りをよく見ていきます。おや、戸塚さん、何か筒のような物を使って、印刷面をのぞいていますね……はい、「編集部だより」をいつもご覧いただだいている方や業界関係者はご存じ、印刷の網点が見える「マイクロスコープ」です。念のためですが、こんな物ですよ。
うーん、少し色味に問題がありました。PDさんに、熱く感想と要望を伝える戸塚さん。
このあとPDさんが印刷機のオペレータに指示を出し、無事に色味がOKの試し刷りが出ましたので、本文の1枚めも本番の何千枚の印刷に入りました。これがまあ1時間ほどかかり、それから本文2枚めの試し刷りに取りかかるので、本文の2枚めの試し刷りが出てくるまでは1時間半ほど、待つことになります。
「立ち会い室」の◯◯に、あるヒミツが?!
窓の外はあいかわらずの雨模様。なんだか眠くなってきて……いかんいかん、仕事中! さあ、ここでみなさんに、印刷立ち会いのヒミツを大公開しますよ。1つめのヒミツはこの写真の中に……
ん? さっきも見たような写真?……いいえ、似ていますが、ちがいますよ〜「まちがいさがし」感覚で……ほら、上の方、蛍光灯の照明が写真に入っているでしょ。じつはこの蛍光灯にヒミツが。
撮影した写真を上下ひっくり返しているので変な感じがすると思いますが、ご勘弁を。左の下のほうに「美術・博物館用 紫外線吸収膜付」、そして右の上のほうに「演色AAA 昼白色」と書いてあるでしょう。これは「色温度」でいうと「5000K」(K=ケルビン)というやつで、太陽光に近く、限りなく真っ白な光に近い発光をすることを表しています。
人工的な照明というのは、それが白熱球であろうと、蛍光灯であろうと、はたまたLEDであろうと、赤っぽい光とか、青っぽい光とか、黄色っぽい光とか、いろいろあるでしょ。そして、印刷物の試し刷りは、そんな色的に偏りのある照明で見てしまったら、正しい判断ができないでしょう。だから、印刷所の立ち会い室の照明には、このような特殊な蛍光灯が使われているんです。
2つめのヒミツはこれ。
なんじゃこれ? ですよね。PDさんがスマホのケースに入れて持っていました。
じつは僕も実物を見たのは、今回がはじめて。これは「ガティフ ライトインジケーター」というもので、先ほど言った5000Kではない光では縦のストライプが浮き出るが、5000Kの光ではそのストライプがほとんど見えなくなる、というスグレモノです。なるほど「IF STRIPES ARE SEEN, LIGHT NOT 5000K」って書いてある。
ヘエ〜これがそうなんだ。だからPDさんたちは、これをもち歩いて、色校正や、試し刷りを見るときは、その見ている場所の光が5000Kであるかどうかを、確認するというわけですね。
ちなみに、これはシールになっていて、それを一昔前は、色校正や試し刷りに貼り付けていたそうなんですが、じつはこう見えても高額のシロモノなので、今どきはせいぜいこのPDさんみたいに持ち歩くのがせいぜいなんだそうです。
印刷立ち会いが終わったときには、もう日は暮れていました。PDさん、印刷所の営業担当さん、そして愛知県からわざわざ足を運んでくださった戸塚さん、どうも大変におつかれさまでした……。
本をつくる、という仕事の中には、こんな地味な作業もあることを、みなさんは知っていましたか?
それではみなさん、またお会いしましょう!
(編集部・刑部)