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編集部だより

ハルゼミの羽化をみた!

2018.06.13

 こんにちは! 編集部の丸本です。
 関東は梅雨の季節がはじまって、じめじめした日がつづきます。
 
 先週末、安曇野の絵本美術館「森のおうち」にいってきました。
「宮沢賢治のどうぶつ絵本原画展」と題した原画展が開催されており、偕成社では『つちはんみょう』『しでむし』を描いてくださっている舘野鴻さんが講演をされるということで、遊びにうかがったのでした。
 
 
 せっかくなので、講演会前日の夜に現地入りすることにしました。舘野さんや、他社の編集者のかたもいっしょにごはんを食べて、ひといきついたころ。話はしぜんと安曇野の虫たちの話になり、「ハルゼミの羽化をみよう」ということになりました。
 
 セミとりは、ちいさいころによくいきました。父親のスーパーカブにのって裏山の墓地に生えている木から、親のかたきのごとくとりまくり、帰るころにはすべてリリース、という遊びをしていました。とれるのはたいていがアブラゼミで、運が良ければミンミンゼミとか、クマゼミとかもとれました。
 
 そんなふうにセミとりにひとときの情熱をもやしていた幼少期でしたが、「ハルゼミ」というのはみたことがありません。聞けば、ハルゼミというのは4〜6月、マツ林に発生するセミで、じつは長年昆虫採集をしている舘野さんも、羽化シーンはみたことがないとのこと。
 それでは、ということで、一同ハルゼミ探しがはじまりました。
 
 さがすのは、宿泊しているコテージのちかくにある林のなか。目線を上げたり下げたりしながら、懐中電灯を手に、林のなかを分け入ります。
 
 さがしはじめて10分ほどで、とおくから「いました!」との声。みてみると、羽化とちゅうのハルゼミでした。
 

地表から30センチくらいの低いところにいました

 
 おお! ちいさい!!
 この写真からはあまり伝わらないかもしれませんが、ハルゼミは体長が3センチくらいしかない、ひじょうにちいさなセミなのです。かわいいなあ。
 こうなると、がぜん燃えてきます。ぼくだってじぶんでみつけたい!
 あらためて鼻息をあらくしながら探すのですが…やはりというかなんというか、そういうオラオラした気持ちの人間のまえには、なかなかハルゼミちゃんはあらわれてくれません。
 
 暗くて寒い夜の林を、ウルシの葉っぱをよけながら果敢に進んでいきますが、やっぱりみつからず。根性なくあきらめのムードがからだのなかから滲み出てくるのをかんじていると、またもやとおくから声が。
 
 くやしい気持ちを好奇心がおしのけ、小走りで声のほうにむかいました。すると、そこには羽化したばかりのハルゼミが!
 

こちらは地表から170センチくらいのところ

 
 なんてうつくしい…!
 アブラゼミの羽化は以前にもみたことがあり、もちろん幻想的で感動的でしたが、それにもまして、このハルゼミの羽化はうつくしかったです。なにせ3センチほどの大きさなので、遠目からみるとセミにはみえない。でも近よってみるとこのうつくしさで、光のあたりかたによってちらちらと虹色にかがやく羽は、ありきたりですが、ガラス細工か宝石のようです。
 
 けっきょく、自分ではみつけられませんでしたが、このほかにも何匹かハルゼミには遭遇し、羽化のいろいろな段階をみることができました。
 

おちゃめポーズにみえますが、これはからだをオリャッと出しているところ。落ちてしまわないか、どきどきしながらみてました

 

からだがぜんぶでたところ。まだ羽がくしゃっとたたまれていますが、このあとピンとしていきます

 
 羽をいためないようにそうっと持ちかえり、羽化していくのをじっくりたっぷり観察しました。時間がたつにつれて、虹色にかがやいていたうすい羽はだんだんと色を濃くしていき、数時間後には…
 

ハルゼミとわたし。しつこいようですが、おもちゃみたいなちいささです!

 
 こんなふうに、セミらしくなっていました。こんな大変身を、ひっそりとやってのけてしまうなんて。知っていることとみていることはぜんぜんちがうなあ、とあらためて発見する夜でした。
 

 
 ここまでがメインの話ですが、この話には番外編がありまして。
 最初にみつけた羽化とちゅうのハルゼミは、それから羽化することができませんでした。こういうことは自然界ではめずらしくなく、たくわえたエネルギーが足りなかったり、気温が適していなかったりなど、さまざまな原因でうまく大人になれないセミたちもたくさんいるそうです。
 
 そうかあ、ざんねんだったねえ、なんて話していると、舘野さんから衝撃的なひとことが!
 
「それ、食おう」
 
 オーマイガー!
 じつは舘野さんは以前から昆虫食を実践していて、薪割りのあいまにみつけたテッポウムシ(カミキリムシの幼虫のこと)などを息子さんといっしょに食べたりしているのでした…。
 
 こんな人たちにみつかったばっかりに、なんてセンチメンタルになるひまもなく、宿泊するコテージの鍋で、グツグツと煮立ったお湯のなかに投入されるハルゼミちゃん。かきまぜる舘野さんのすがたに、ヘンゼルとグレーテルの魔女をおもいだしました。
 

ゆであがったハルゼミと舘野さん。ぐうぜんにも、ぜつみょうなライティングになりました。わるそう…

 
 なんやかやあり、ぼくもひとくち食べることになりました。躊躇しながら口にかけらを放りこむと…なんと、プリプリしたような独特の食感のあとにやってくるのは、ほのかなナッツのかおりでした。
 
 昆虫料理研究家・内山昭一さんの『昆虫食入門』(平凡社)という本を読んだとき、「セミはナッツ味」と書かれていて、えー、まじですか、なんてあまり本気にしていなかったんですが、たしかに、ハルゼミはナッツ味だったのです!
 
 これには一同おどろきで、ちいさなハルゼミをあぶらっぽい男たちでちびちびと分けながら試食をするという、なんとも奇妙な晩餐会となりました。
 

 
 翌日の舘野さんの講演会は、大盛況でした。講演後、無事羽化できたハルゼミたちは林へとリリース。のばした手先から飛び立つそのすがたは、ちいさくもとても力強くかんじました。
 
 林からは「ムゼー、ムゼー」というハルゼミの声。
 ひとあしさきに、夏をかんじた安曇野訪問でした。
 
 
 
(編集部・丸本)

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