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〈書評〉

『きつねの橋 』久保田香里 作 佐竹美保 絵

友情、失敗、ほのかな想い––––平安の少年の熱い青春がここに(ペリー荻野・評)


 青春!

「きつねの橋」を読んで浮かんだのは、この言葉です。

 え? きつねでしょ? 平安時代の話でしょ? と思われるかもしれませんが、この物語には、摩訶不思議なきつねの話とともに少年たちの熱い青春のエピソードが詰め込まれています。

 たとえば「友情」。

 主人公のたいらのさだみちは十五歳。彼は、家族の期待を背負って京の都のみなもとの頼光よりみつの屋敷で働いています。でも、仕事は掃除や馬の世話など下働きばかり。周囲に存在を認めてもらうため、貞道は人を化かすきつねを捕らえようとします。その際に出会ったのが、たいらのすえたけ。年は近い二人ですが、山育ちで向上心の強い貞道と京びとらしく品のいい季武は、外見も性格も対照的。それでも気の合う二人は、やがて気のいいきみともとも仲良くなって、恐ろしい敵に立ち向かうことになります。

 一人暮らしの公友の屋敷に入り浸って、あーだこーだと語り合う三人。これはバンドやテスト勉強にかこつけて、誰かの部屋に集まる現代のティーンエイジャーとまったく同じ。何かご褒美をといわれた友人に、新しい狩衣(つまり最新ファッション)を頼めばとアドバイスしたり、あこがれの車に乗ってはしゃいだり(といっても、車は牛車なんですけど)、彼らのにぎやかな日々に、にんまりしてしまいます。

 もちろん、未熟ゆえの「失敗」もします。

 腕っぷしには自信のある貞道は、美しい女に化けたきつねを一度取り逃がします。その後、きつねよりも悪賢い人間にも騙される……。この悔しさや痛みも若者にはつきもの。しかも、一歩間違えば命はなかった。そこからどう立ち直るのか。味方になってくれる友やおとなたちとの関りにも、ぐっときます。

 さらにこの作品ならではの味が、「ほのかな思い」。

 二度目にはきつねを見事捕らえて屋敷に連れ帰った貞道ですが、郎等たちがきつねを痛めつけるのを見ると、「やめろ。そこまでだ。」と止めに入り、さっと逃がします。その際、きつねが探す屋敷の場所をそっと耳打ちする。なかなか、カッコいいじゃないですか。

 その後、きつねと再会した貞道は、きつねが無事でいたことにどこかほっとします。そして、「葉月」と名乗ったきつねが、危険を顧みず、たびたび姿を現すことに、もやもやした気持ちを抱くのです。これって、ひょっとして……!?

 しかし、どんなに心が通じ合ったとしても、やはり人ときつね。その結末がとっても気になる!!

 この物語を読んでいて面白いと思うのは、少年たちとともに、きつねや鬼など不思議なものたちが、そこにいて当たり前だと感じること。現代人は、さまざまな発明によって「完全な闇」を経験する機会がほとんどない生活をしていますが、平安のころには、葉月の言う「ちょうどいいうす暗さ」から、次第に濃密になる暗がり、闇が存在したと言います。

 そこに渦巻く怨みが、あやしい影となって現れる。その怨みは、争いや陰謀など、人が生み出したものです。捕らえられた葉月を笑いながらいたぶる男たちが、貞道にばけものめいて見えたように、本物の鬼やばけものは人間の中にいる。それは現代の私たちが、ネット社会にはびこる悪意に恐怖を感じるのと同じです。闇は目に見えなくなっただけで、いつの時代も人は、鬼やばけものと戦い続けているのかもしれません。

 貞道たちは、友と助け合い、昔から伝わる魔除けも用いて、邪悪と戦います。闇に引きずり込まれそうになった時、ひとりで戦わず、信頼できる人と助け合うこと、魔除けでもなんでも用いて心を落ち着かせるのは、とても大切。彼らに私も教えられました。

 そういえば、私はある時代劇の主役に「男は橋を渡るたびにおとなになる」と聞いたことがあります。その人はこどものころ、夕焼けを背にひとり自転車で大きな橋を渡ったとき、ちょっとだけおとなの男になったと感じたそうです。貞道も「きつねの橋」を渡り、新しい経験をたくさんします。頑張れよ、貞道! 千年前の青春の風が、右耳あたりを吹き抜けて、気持ちいいです。


ペリー荻野

1962年愛知県生まれ。コラムニスト・時代劇研究家。学生時代よりラジオパーソナリティ兼放送作家として活動。新聞、雑誌、webでコラムを連載するほか、時代劇好きを集めた「ちょんまげ愛好女子部」部長を務める。「芥川賞直木賞決定中継」(ニコニコ動画)、「マイあさ! ペリー式歴史散歩」(NHKラジオ第一)などを担当。著作「脚本家という仕事」(東京ニュース通信社)、「バトル式歴史偉人伝」(新潮社)他多数。

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