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〈書評〉

『お月さまになりたい』(三木 卓 作/及川賢治 絵)

犬が本当になりたかったもの(斉藤 倫・評)

 ここをお読みの、犬の皆さまに、今日は、ぜひご紹介したい本があるのです。
 タイトルは、『お月さまになりたい』。
「月になんか興味ないね。オオカミだったころは満月に遠吠えもしたらしいけど」
 なんておもわれるかもしれませんが、まあ聞いてください。

 作者は、三木卓さん。及川賢治さんのすてきな挿絵がたっぷりありますが、絵本よりは長めの読み物というところ。新たなイラストで、なんと、五十年ぶりの新版となった名作なのです。

 三木卓さんは、ごぞんじかもしれません、詩人で、芥川賞作家でもあります。子どもの本もたくさんあって、なんといっても、『がまくんとかえるくん』の翻訳が有名ですね。

 さて、はじまりは、学校帰りの男の子のまえに、一匹の「白と茶のぶちの犬」が、やってくるところです(ほら、ちゃんと犬が出てきました!)。

 犬はしっぽをふり、口ぶえを吹くと、とんできます。男の子は、すっかり気に入ってしまいました。

「いい犬だなあ。でも、ぼくは、まっ白い犬がすきなんだ。それなら、かってやるんだけど」
 と、こころのなかで、おもいます。

 すると、おどろいたことに、目のまえのぶち犬は、真っ白になっていました!

 それどころか、「こうなれば、かってくれますね」などと、いうではありませんか。男の子のこころがわかるだけではなく、ことばも話せるのです。

「毛なみの色だけではありません。ぼくは、じぶんがなりたいものになれるんです。そう思いさえすれば」

 男の子は、おどろきながらも、たずねます。一万円札になれる? グレープフルーツになれる? なんて。ところが、犬は、あれこれ理由をつけて、それをことわります。

 どうも、犬らしくないなあ、と、皆さんは、おもうかもしれません。犬は、たいてい、もっと素直に、にんげんのいうことを聞くものですからね。

 ところが、男の子は、すっかり魅了され、犬も、風見鶏や、気球など、どんどん意外なものに、変身してみせます。そんなの想像つかない? ご心配は無用です。及川さんが、かわいらしいイラストにしてくれています。

 男の子と犬は、さまざまな、わくわくする体験をします。そして、犬は、本当になりたいものをうちあけるのです。

「お月さま」

 男の子は、ふしぎです。どうしてあんなつめたい岩のかたまりになりたいの? そして考えなおすように説得します。

 犬も、あきらめきれません。
「でも、なりたいんだもの……」

 あきれて、さっていこうとする男の子のそでを、犬はあわててくわえ、おどろくような提案をします––––。ここからは、読んでのお楽しみとしましょう。

 三木卓さんは、戦争中に満州というところで生まれ、敗戦によって、悲惨な引き揚げの体験をしました。

 これは、わたしの空想ですが、きびしい戦時下を生きぬき、民主主義の時代となったとき、三木さんは「自由」というものは、けっして当たりまえにあるものではない、と、考えたのではないでしょうか。

 犬は、さまざまなものになろうとします。自由に、おもうままに。だけど、男の子をすっかり好きになっていた犬。空のお月さまになったら、いっしょにはいられない。でも、じぶんのおもいはなくせない……。

 わたしたちは、自由でいながら、どうじに、大切なものをなくさないでいることができるのかな。そんなことを、この本は問いかけているような気がします。

 犬の皆さんも、飼ったり飼われたりではなく、にんげんと友だちどうしでいられたら、なんて、一度は考えたことがあるでしょう。べつべつの生きものが、おたがい自由なまま、家族みたいに生きられたら、と……。

 もちろん、この本は、ただ、ふしぎな犬との冒険に、わくわくしてもらえたらじゅうぶんなのです!

 最後にひとつ。わたしは、月になった犬の場面が、『星の王子さま』という本に、よく似ているとおもいました。気になったかたは、まわりの本が好きそうなにんげんに、きいてみてもよいかもしれませんね。

 


斉藤 倫(さいとう・りん)

1969年生まれ。詩人。『どろぼうのどろぼん』で、第48回日本児童文学者協会新人賞、第64回小学館児童出版文化賞を受賞。おもな作品に『波うちぎわのシアン』『あしたもオカピ』『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』『新月の子どもたち』、うきまるとの共作絵本として、『はるとあき』『まちがいまちにようこそ』などがある。

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