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〈書評〉

『紅の魔女』(小森香折 作/平澤朋子 絵)

私的重要5大要素がすべてつまった児童文学!(池澤春菜・評)

あくまで私的こだわりポイントなのですが、児童文学にこれがあったら最高、と思う要素がいくつかあります。

①主人公のイキがいいこと

鬱々主人公が発奮するのもいいけれど、できれば自分からどんどん動いて物語に飛びこんでいく、そんな元気な主人公の活躍を見たい。

②その世界の匂いや空気まで感じられること

本を読むことは旅をすること。ファンタジーならなおさら、見知らぬ国をまざまざと目の前に描いてほしい。とりわけ食べ物!!

③登場人物それぞれに厚みがあり、人生があること

物語を動かすためのご都合主義的なコマではなく、それぞれの考えや選択が物語を動かしている。特別お気に入りになった登場人物のスピンオフなんて書かれたりしたら最高。

④素敵な相棒がいること

過酷な冒険を乗りきるには、頼れる&和める相棒が必須。ファンタジーな生き物なら、なお素敵。

⑤挿絵が素晴らしいこと

物語をより膨らませ、生き生きと描き出してくれる挿絵、大事。めちゃくちゃ細かく言うと、章扉に絵があったり、飾り縁や世界地図があると、トキメキポイントが一気に加算されます。

本書『紅の魔女』及び1巻目の『青の読み手』には、このわたしが求める5大要素がすべてつまっているじゃないですか。

ノアの生意気さ、へこたれなさ、頭の回転の良さと、世の中の暗い部分もちゃんと知っているところ、なんて読んでいて気持ちの良い主人公なんでしょ。この子だったら、どんな大きな運命の荒波も、鼻で笑ってそこらへんの板きれをサーフボード代わりに突っ込んでいってくれる、そう思わせる心強さがあります。

そのノアたちが生きるラベンヌや、『紅の魔女』に出てくるザスーンの文化や人々の暮らし。読みながらこれは17〜18世紀フランスをモチーフにしているのかしら? こっちは帝政ロシアかも、とあれこれ考えてみるのも面白い。玉ねぎパイは思わずレシピを探してしまいました。

池澤さんが実作された玉ねぎパイ。

登場人物たちも個性豊か。とりわけ『紅の魔女』で出てきた美顔師のサンドラと、セシル王女の近衛騎士アゴスの今後が気になる。

そして相棒、パルメザン! ナルニア国物語のリーピチープ、マージェリー・シャープが生み出した最も高貴な白ネズミ、ミス・ビアンカ、『トンデモネズミ大活躍』などなど、児童文学とネズミは相性が良いように思う。小さな体にいっぱいの勇気を詰めこんで飛びこんでいくネズミの勇ましくも可愛らしいこと。中でもこのパルメザンは一気にわたしのベスト相棒ネズミランキングの上位に躍りでました。

挿絵も素晴らしい。短い章がどんどん続き、視点や場面が入れかわる。そのテンポ良い切りかえを平澤朋子さんの挿絵が助けてくれる。表紙の少しクラシカルな感じもとても好き。

以上私的重要5大要素がすべてそろったこのシリーズは、まだまだ始まったばかり。ノアは本当に<青の読み手>なのか、闇で笑う謎の人物は?、パルメザンの活躍をもっともっと読みたい、青、赤と来たから次は黄色か緑かしら? とワクワク。

続きを楽しみに待ちたいと思います。


池澤春菜(いけざわ・はるな)

声優、文筆家。ギリシャ・アテネ生まれ。
出演作に『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』星馬豪、『とっとこハム太郎』ロコちゃん・トラハムちゃん、『ワンピース』ケイミー、『ケロロ軍曹』西澤桃華役など。第20代日本SF作家クラブ会長。SFエッセイ集『SFのSは、ステキのS』で第48回星雲賞ノンフィクション部門、「オービタル・クリスマス」で第52回日本短編部門を受賞。著書に『乙女の読書道』『SFのSは、ステキのS』『最愛台湾ごはん 春菜的台湾好吃案内』『ぜんぶ本の話/池澤夏樹共著)』、『無垢の歌/ウィリアム・ブレイク著、池澤夏樹共訳』『子供の詩の庭/R・L・スティーブンソン著、池澤夏樹共訳』『火守/劉慈欣著』など。

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今日の1さつ

病院の待ち合い室でこの本に出会い、子ども達が大大大好きになりました。痛いことは誰でも辛いことだけれど、治すためにがんばろうというメッセージが小さな子どもの心に響くようです。予防接種の際に「少し痛いけど必要なことだからがんばろう!」そんな時に子どもに読んであげたい1冊です。(3歳、8歳・お母さまより)

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