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〈書評〉

『ひこぼしをみあげて』(瀧羽麻子 作/今日マチ子 絵)

瀧羽さんだから描ける、ちょっとビターな大人の味(吉野万理子・評)

 瀧羽麻子さんの最新刊『ひこぼしをみあげて』は、3年前に刊行された『たまねぎとはちみつ』の続編にあたる。主人公を取り巻く登場人物がほぼ入れ替わっているので、この新作から読んでもすんなり物語に入れる。それでも、やっぱり前作を先に読むことをお薦めしたい。順に読むと、主人公・千春の成長していく姿が鮮明でまぶしい。

 千春は『たまねぎとはちみつ』では、小学5年生だった。友だちの紗希が塾通いで忙しくなってしまったので、放課後、ひとりぼっちの時間が増える。そんな折、路地裏にある店の風変わりなおじさんと知り合いに。受け身で内省的だった女の子の世界が、少しずつ広がっていく。

 新作の『ひこぼしをみあげて』では、千春は中学1年生になった。紗希とは別の学校に進学。新しい友だちのに引っ張られて天文部に入部したものの、メンバーの熱量についていけず戸惑うところから、物語は始まる。

 スタート時点ではやはり受け身だ。他の部員ほどには星が好きになれない気がして、みんなから不快に思われるかもと考えすぎてしまう。けれど、那彩や先輩たちと話すことで、前向きに関わっていけるようになる。

 そして千春は、部活のメンバーのなかに気になる男性を見つける。片瀬先輩。最初は自覚なく、ただ視界に入り、目で追っているだけ。心情表現はないままに、文章のなかに片瀬先輩の描写が増えていく。やがて彼女は、少しずつ能動的になっていく。

 あ……ひょっとして千春ちゃんってば。読者は、まるでそばにいる友人のように、彼女の変化に気づく。瀧羽さんの筆致は、いつも温かい。

ただし、温かいからといって、甘いわけではない。出会いがあれば、必ず別れがある。願いは叶うとは限らない。そんなリアルさを、読者は突き付けられる。そして人間は、無限に都合よく変化できるわけではなく、業というべきか、変わらない部分も持っていることを痛感させられる。終盤、千春はある重荷をひとりで背負う。誰かに相談しない。

 例えるならば、美味しい抹茶を飲んでいるうち徐々に濃くなり苦くなり、それでもやめられずに最後まで飲み干して、これが大人の味なのかな、と感じる––––この本を読むのは、そんな体験に近いのかもしれない。

 ちょっとビターな大人の味は、瀧羽さんが大人向けの作品を書き続けてきた著者だからこそ、ためらいなく子どもたちに伝えられている気がする。

 出版界には少々奇妙な慣習がある。一般書(大人の文学)と児童書はくっきりと分けられている。書店のコーナーはもちろん、宣伝の媒体も書評する顔ぶれも違う。だから、当然かもしれないが、一般書と児童書を行き来する作家は少ない。

 私自身、もともと一般書でスタートして、その後で児童書“デビュー”したので「分断」に違和感を覚え続けている。だからこそ、瀧羽さんのこの2作品の存在がとても心強いのだ。

 児童書のYAと、一般書の青春文学はとても近いものだと思う。両方を書く作家がもっと増えてほしいし、さらに言えば、その区分が曖昧になっていってほしいと願っている。

『ひこぼしをみあげて』は、瀧羽さんの一般書ファンが見逃してはいけない本だ。一方、この作品を読んだ小中学生には、いずれ瀧羽さんの一般書にも挑戦してみてもらいたいと思う。


吉野万理子(よしの・まりこ)

神奈川県出身。2005(平成17)年『秋の大三角』で第1回新潮エンターテインメント新人賞を受賞。脚本『73年前の紙風船』で第73回文化庁芸術祭ラジオドラマ部門優秀賞受賞。主な作品に「チーム」 シリーズ、『いい人ランキング』『部長会議はじまります』『南西の風やや強く』『時速47メートル の疾走』『階段ランナー』『恋愛問題は止まらない』『5年1組ひみつだよ』など多数。

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