杉山亮さん作、中川大輔さん絵の「ミルキー杉山のあなたも名探偵」シリーズは、2022年で刊行30周年をむかえました。
ちょっと頼りない探偵の主人公・ミルキー杉山が、仲間の助けをかりながら様々な事件を解決していく物語です。ひとつのお話が「事件編」と「解答編」にわかれていて、ミルキーといっしょに推理を楽しむことができます。
今回は、1992年に発売された第1作『もしかしたら名探偵』と、最新刊の『おかげさまで名探偵』を見くらべて、ミルキーの30年をふりかえってみたいと思います。
30年たてば、探偵の持ちものだって変わります
まずは記念すべき1作目、『もしかしたら名探偵』をひらいてみましょう。
テーブルの上に注目してください。ミルキーが仕事の連絡につかっているのは……そう、ダイヤル式の黒電話です。
出先からは公衆電話でかけるため、この頃の持ちものは「テレホンカード」でした。探偵の依頼は、自宅の郵便受けに「手紙」で来ることも多かったようです。
変わり目は、2000年発売の『まってました名探偵』。
ここでミルキー、妻のたつ子とおそろいの「携帯電話」を手に入れました。最近では見なくなった、アンテナをのばしてつかう縦長タイプです。
探偵なかまたちと、いつでもどこでも連絡が取れるようになりました。
ちなみに、この巻収録の「ミス・ラビットふたたびあらわる」では、さっそくこの携帯が事件解決の鍵をにぎることになりますよ。
そして現在、『おかげさまで名探偵』では、携帯が「スマホ」に進化。
依頼人からのメールのチェックも、証拠写真の撮影も、これ一台でできます。令和の探偵には欠かせない道具というわけです。
ただし、同時に「手帳・えんぴつ・虫眼鏡」という、探偵におなじみのアナログアイテムも愛用しつづけているのが、ミルキーらしいところです。
カラーの絵は、「切り絵」なんです!
この30年のあいだに、本の作り方もだいぶ変わりました。
データ上での制作・印刷が当たり前になったことで、中川さんによる白黒ページのイラストは、手書きからデジタルへ。
細かい描き込みがくっきりと見えますし、あとから絵の修正をしやすいのもデータのいいところです。
一方、表紙や本文のカラーページの制作方法は、最初から変わっていません。
あまりに細かいのでお気づきでない読者の方もいると思うのですが、じつはこちら、「切り絵」でできているんです。
色の境目をよく見ると、影ができているのがわかるでしょうか。細かい模様や線などは、上からペンで描き足してあります。
切り絵の原画はより立体感があって、カラフルな色もはっきり、目に飛び込んできます。機会があれば、ぜひみなさんにも生で見ていただきたいと思っています。
ちなみに、中川さんが主に制作につかっていらっしゃるのは、ごくふつうの市販カッターとのこと。弘法筆を選ばず、でした。
変わらないチームワーク
わたしがミルキーシリーズの担当となったのは、今年発売の『おかげさまで名探偵』と、同時発売した『ミルキー杉山のあなたも名探偵ガイドブック』から。
シリーズの編集担当としては3代目です。
はじめは、長年続いてきた作品をうまく引き継げるだろうか……と不安に思っていましたが、無用な心配でした。
作者の杉山さん、画家の中川さん、デザイナー、校正者を合わせた4名は、第1作からずっとおなじメンバーで、すでに鉄壁のチームワークができあがっていたのです。
おどろきのトリックをしこみ、謎解きのヒントをうまく散りばめた原稿を練ってくださる杉山さん(原稿の段階で、絵やセリフについての指示もしっかり入っています)。原稿を読み、ミルキーの世界を臨場感たっぷりに描きあげられる中川さん。それらを合わせて、巻末の「どろぼう新聞」まで茶目っ気たっぷりにレイアウトしてくださるデザイナーさん。できあがったゲラを、推理の矛盾やまちがいがないか、丹念にチェックしてくださる校正さん。
––––そんな「チームミルキー」の先輩方と、印刷所・製本所の方に大いに助けていただき、おかげさまで、2冊の新刊を出すことができたのでした。
ミルキーシリーズはこれまで全25作でていますが、巻数をあえてふっていないのは、どの本から読んでも楽しんでもらえるからです。ファンのみなさんはもちろん、今まで読んだことがなかった人にも、30周年をきっかけに手に取ってもらえたらうれしく思います。
40周年、50周年……100周年をめざして、チームミルキーも走りつづけます!
(編集部・中嶋)