みなさんこんにちは。2023年さんこんにちは。新年すでに3レース出場、ケガからの回復を感じているランナーの藤田です。まだわからんぞ。
さて、今回は新刊の『おどろきの700万年 人類の進化大百科』の裏話、どうやって企画がスタートしたか、のお話です。
ひとつのきっかけが話題作『サピエンス全史』(上・下巻/ユヴァル・ノア・ハラリ著/河出書房新社)でした。これを読んでまず人類史に興味を持ちました。そしてそういえば、と思い立ち、かなり昔に読んだ名著『銃・病原菌・鉄』(上・下巻/ジャレド・ダイアモンド著/草思社)を再読しました。1997年刊行の本でピューリッツァー賞受賞作です。
ほかもいろいろ読み、だんだん頭のなかで「人類とは」がおぼろげながら浮かんできました。
ただそれまでの本はいずれも有史時代の話が中心で、どうせ知るのであればより基本的なところ、先史時代から知らなくては、と思いました。もっというとそれは「人類の進化」です。
ジャン! そこで出会ったのが更科功先生の『絶滅の人類史』(NHK出版新書)でした。この本には、名前しか知らなかった人類たち(そう、複数です!)のことが、かんでふくめるようにていねいに述べられており、もう夢中になりました。
あまりにおもしろかったので、この本をB5の裏紙に手書きでまとめることにしました。少しずつ書き出していき、ふた月ぐらいはかかったかもしれません。B5の裏紙にびっしり23枚、400字詰め原稿用紙だと100枚ほどになりましょうか。
そして、このようにまとめてみると、わかる……わかるぞ! この本まるごと、より深く理解できるようになりました。進化人類学ってこんなにおもしろかったんだ! そして興味が加速し、進化人類学の本をどんどん読んでいきました。世の中には、おもしろいことがあちこちにころがっています。
こうなると、私の仕事は子どもの本作りですので、やはり「子どもの本にできるかもしれない」という思いがムクムクと湧きあがってきました。
なんだか順序が逆のような気もしますが(「子どもの本にしよう→まとめよう・調べよう」ではない)、私はどうも人より理解力がないようなので、こうしないと全体が見えてこないのです。全体というのは「子どもの本になるか」ということもふくめてです。
この時点で、もういても立ってもいられません。更科先生にご相談だ! とほとんど思いつめるような気持ちです。そして本の感想とともに「お時間をちょうだいできませんでしょうか……」とお手紙をしたためました。じつはこの手紙のまえにもはがきでファンレターのようなものはお送りしていました。先生の『若い読者に贈る美しい生物学講義』(ダイヤモンド社)もガッツポーズ級の名著で、紙の本をくりかえし読むだけでなく、オーディオブックでもランニング中はもとより、犬の散歩中やら、登山中やらに聴きたおしていたのです。頭のなかはもう更科先生のことばかり、です。
お手紙をお送りしてしばらくすると、メールでお返事をいただきました。
「私の本をいろいろと読んでくださっているとのこと、たいへん嬉しいです。お会いしましょう」
いえい! ありがとうございます! 2020年12月のことです。
当日は雪。寒さと緊張で、ふるえるようにして先生にお会いしました。といってもファミレスなのであたたかい。
そこで更科先生に、いかにご著作が刺激的であるか、目をひらかせられたか、これまでにない形で科学をつたえているか、をまるで私が執筆したかのように興奮しながらお話ししました。そしてさいごに、つきましては子どもに向けて本を書いてはいただけないか、とご提案をさしあげたのです。
しかし世の中そんなにうまくはいきません。更科先生は研究者・著者としてご多忙をきわめていらっしゃり、とうぜん書き下ろしをするにはむずかしい状況でした。
「心苦しいんですが、新しい仕事はなかなか……」とのことで、このさき何年も執筆予定のつまったスケジュール帳を見せてくださいました。うーむ……。
そこで、B5の裏紙の紙束を机の上に出して先生に言いました。
「まとめてみたのですが……この本に書かれているような<人類の進化>を、子ども向けて本にすることはお願いできませんでしょうか。ご監修という形でも……」
なんと押しつけがましい。
先生は「こ、これは……ちょっと見せてくれますか」といって、その紙に見入っています。そして顔を上げると、
「そうですか。書くのは難しいのですが、監修ならやらせていただきます」とおっしゃいました。うゎお。
「ほ、本当ですか。あ、ありがとうございます!」とびあがるほどうれしいお返事でした。ここまで1年ぐらいかけて文化人類学から進化人類学の本を読んできましたが、それがむくわれた瞬間でした。これぞ「編集」という仕事の醍醐味です。
こうして更科先生にご監修をお受けいただき、この本が一歩目をふみだした、というわけです。もちろんこのあとも艱難辛苦の本づくりが続きますが、その話はまた次の機会に。
内容も少しご紹介。この本は人類の進化の歴史を絵と写真で見ていくものですが、なかでも独自の見せ方をしているところがあります。それは「検証! この仮説、本当に正しい?」のページです。科学の「理論」や「法則」は、どのようにして確立したのか、その「考え方」をわかりやすく図にしたページです。
これがまたスゲーたいへんでした。まず私自身が、その仮説の流れを完全に理解しないといけません。作り手がわからなくて、だれがわかるのか。ましてや読者は子どもです。そうして理解したら、こんどは私の脳内から「外」に出さなくてはなりません。それもわかりやすく。もう頭のなかは一日じゅう「仮説」のことばかり。うおー。この見開きは科学というものを知るにあたり、重要なトピックなので、本作りの過程のさいごのさいごまで手を入れていました。おそらくこのような形で「仮説形成の流れ」を子ども向けに図にしたものは、ほかにないのではないでしょうか(わたくし調べ)。だから編集作業がおわったときは、もう精も根モツキハテマシタヨ……。
でもこうして力を出しつくすことこそが「本をつくる」ことのおもしろさなんですよね。なんでもそうだけど。だからいまはやりきった気持ちでいっぱい。
でもそれにひたっていると、また次の本が出ない。さあやるぞ。
(編集部 藤田)