3月末、「あかちゃんのあそびえほん」シリーズ編集担当の編集部Sと、シリーズ35周年フェア担当の販売部Sは、板橋区の大村製本さんを訪れていた。
穴あけ・ページ幅が異なるしかけがある『はらぺこあおむし』、目の位置に穴をぴたりとあける『おめんです』など偕成社のしかけ絵本を作っている製本所だ。
今日は、しかけ絵本「あかちゃんのあそびえほん」シリーズの新刊『ありがとうできるかな』『ごめんなさいできるかな』の製本作業を見学に来たのだ。
まず、社長の齋藤さん、工場長の福原さん、加工部長の林さん、そして偕成社を担当している営業の依田さんに、お話をうかがった。
「あかちゃんのあそびえほん」シリーズの型抜きや製本をしはじめたころは、型抜き絵本の受注は多くなかったが、累計1350万部越えの本シリーズの製作数の多さに鍛えられたこともあり、いまでは多くの型抜き絵本を作っているそうだ。
あたらしいしかけ絵本のアイデアやダミーを営業担当が出版社から持ち帰ると、工場のみなさんで集まり、どういうふうに作れるか相談するところからはじめるという。そのままは難しくても、アイデアを生かして実現できる形を提案し、作家さんや出版社と話し合って製作していくという。
作家さんの発想に鍛えられて、いろいろなしかけの製本が出来るようになってきたと齋藤社長は話す。
偕成社の「とびだす・ひろがる!えほん」シリーズなどは、型抜きと折りの両方の技術が問われるしかけ絵本らしい。
いよいよ絵本工場のなかへ!
印刷され、積み上げられた紙と、大型の機械がならぶ内部。機械はヨーロッパ製のものが多く(製本技術はヨーロッパが強いため)、それを改造したり、調整したりしながら使っている。
ハードカバーの型抜きしかけ絵本の製本はおおむね、下記の工程で行われる。
裁断
→印刷所からは、大きな用紙に何ページ分も印刷された紙が運びこまれる。これを製本しやすい大きさに切っていく。この工程でズレが生じると、その後の作業でも調整が必要となる。最初が肝心。
型抜き
→機械で一枚ずつ紙に型を押し当て、切っていく。折り目に折り筋もつける。
型は別の会社に作ってもらい、それを板に固定し、刃のまわりにゴムを貼り付ける。機械の押し当てる力によって切れすぎたり、逆にうまく切り取れなかったりする。
『ごめんなさいできるかな』の型はこんなかたち。
実際に使うまえに、型の刃のまわりにゴムを貼り付け、ちょうどよく紙に刃が当たるようにする。
「あかちゃんのあそびえほん」シリーズの型いろいろ。重版にそなえて保管されている。
そばには、実際に型抜きされた『ありがとうできるかな』用紙が積まれていた。
『ごめんなさいできるかな』のしかけは、中央にキャラクターを残して四角く切り抜くが、これはけっこう難しいしかけらしい。写真の緑の部分は、機械では完全に切り離さずに、手作業で外していく。ちょうどよい力加減でないと、機械の中に切り離されてしまった断片が詰まったり、逆に刃の当て方が弱いと、手で切り抜き部分を外すときに綺麗に取れなかったりするという。
ちなみに、「あかちゃんのあそびえほん」シリーズのような厚くない紙の型抜きは、薄い刃の型を使うが、ボードブックの型抜きではもっとがっちりした型を使うそう。
ボードブック『たんけんハンドル せんすいかん』の型はこちら。
ページを重ねて縫う(中とじミシン)
→型抜きして、折り筋をつけた用紙をセットし、山形に順に重ねて、最後にミシン糸で縫う。重ねるページが間違わないよう絵柄をカメラで判定し、違うページが入ると機械が止まるようになっている。ハイテク!
片ページの大きさがもう片方と違うしかけ絵本(『はらぺこあおむし』など)は、うまく重ならず下へ落ちてしまったりするらしく、機械を微調整して、紙の落ちる勢いを弱め、きちんと重なるようにしているそう。
この工程担当の方にこれまで大変だったしかけをきいてみたところ、『ごあいさつあそび』の最後、ゆうちゃんが家でごあいさつする場面の、中央にキャラクターを残して四角く切り抜くしかけとのこと。以前には中央部分が本来とは反対側に折れて、まったく別のページからゆうちゃんがでてしまうこともあり、苦労したそうだ。
『ごめんなさいできるかな』では、それと同じしかけが3か所もある……。工夫を重ねて、職人技で作家さんの思ったとおりのしかけを実現できるようになっている。
ちなみに、ページを縫い止めるミシン糸の色は基本は白だが、早めに相談すればいろんな色を選べるそう。
表紙を作る(くるみ)
→表紙の用紙に厚紙(ボール紙)をつけ、くるむ。
「あかちゃんのあそびえほん」の場合は、角を丸く加工したボール紙を使い、通常どおりくるんでから、端を丸くつぶすようにしているそう。
角を丸くしたボール紙を
表紙でくるんで
角を丸くする機械に入れて
できあがり!
あかちゃんがさわっても、安心なつくりになっている。
表紙を本文とつける
→ミシン縫いした本文とボードをつけた表紙を貼り付ける。ぴたっと吸い付くようにできあがっていく。
番外 手作業
→さきほど書いた切り抜き部分の取り外しのほか、誤植のページを切り取って修正したページの端にのりを塗って差し込む<切りかえし>や、少部数の冊子の製本、本の修理などの仕事もうけているそう。ちなみに『パパ、お月さまとって!』のひろがるページの折りたたみ作業も手作業である。
一部のビッグブックも手作業で貼り合わせしているという。
見学を終えて
機械を使った作業といっても、型抜きの微妙な力加減や紙の落ちるスピード調整などで、本の仕上がりは変わってくる。
まさに職人技!
同じようなしかけであっても、数ミリちがうだけで製本は変わるので、毎回工夫しながら製本していくのだという。
今回はじめて製本所を見学した販売のSさんも
「わたし自身、『はらぺこあおむし』をはじめ幼いころからしかけ絵本が大好きでしたが、こんなにも多くの手間や人の力で誕生することを知って、とても驚きました! それぞれの工程に職人さんがいらっしゃって、一冊一冊ていねいな絵本づくりをされていると実感。しかけ絵本がより好きになりました。
わたしも、見学をとおして、たしかな技術に支えられてしかけ絵本が作られていることを、改めて実感した。
これからも作家さんから難しそうなしかけ絵本のアイデアを相談されたら、まずは大村製本さんに連絡してみようと思う。
今回の新刊2冊、そして今後の新作絵本も、どうぞよろしくお願いします!
(編集部 S)