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偕成社文庫100本ノック

第38回(プレイバック中!)

ハイジ

『ハイジ1』ヨハンナ・シュピーリ 作/小谷智子 絵/若松宣子 訳

 1. ハイジときけば、TVアニメの主題歌とオープニング映像が頭のなかをリピートする。
 2. 原作というと、自分のイメージとは少しちがっているんじゃないかなと思う。

 1にYesと答えた方、今年4月に出たこの新訳版『ハイジ』には、2のような心配は無用です。
 ハイジもおじいさんも、クララもロッテンマイヤーさんも、ペーターも盲目のおばあさんも、アルムの山々もモミの木もヤギたちも……かなりアニメのイメージに近いのではないでしょうか。(犬のヨーゼフは、アニメ独自のキャラクターなので出てきませんが。)

 ハイジの魅力は、なんといっても素直さと思いやりの深さです。
 ペーターのおばあさんの目が見えないと知ったとき、おばあさんはハイジの言葉にやさしさを読みとり、癒されます。

 とうとうハイジは、わんわん泣きだしました。かなしくて、しゃくりあげながら、こうききます。
「だれだったら、また見えるようにできるの? だれもできないの? だあれも?」

〈ハイジのあたたかな気持ちが、まわりの人たちをかえていく〉という本の帯の言葉どおり、ハイジに接した人たちは、それぞれが自分をみつめ、かわっていきます。おじいさんもクララもペーターも。
 TVアニメではえがかれなかった内面の描写は、完訳版ならではの読みどころです。

 そして、ハイジのほがらかさをささえているのは、アルプスの大自然です。

「ペーター、ペーター! 火事よ! 山がすっかり燃えて、雪のかたまりも、空も、こがしてる。ほら、見て。(中略)みんな、みんな火に包まれてる。」
「いつもこうだよ。」ペーターはのんびりいって、むちの皮をむきつづけました。「だけど、あれは火じゃないんだ。」
「じゃあ、なあに?」

 そんなふうに一生懸命おどろくハイジに答えるおじいさんの説明がまたいいのです。

「それはだな。太陽の仕業なのだ。山に向かって、おやすみ、というときに、いちばんきれいな光を投げかけていくのだ。そして明日またくるからわすれないで、といっているのだよ。」

 都会のお屋敷でクララといっしょに何不自由なくくらしながら、やはりアルムの山に恋いこがれるハイジ。ホームシックになり、ついに山のおじいさんのところに戻ります。
 クララのかかりつけ医は、ハイジとともにアルムでしばらく過ごしたあとにこういいます。

「あの山は、いいことばかりだ。あそこなら、体も心もすこやかになる。そして生きることをまたよろこべるようになるのだ。」

 人(子ども)は自然のなかに身をおくことで、本来の自分をとりもどす――130年以上まえに書かれた物語ですが、いまの時代にいっそうたいせつなことが書かれているように思います。

(編集部 和田)

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今日の1さつ

推理小説で、怪奇小説で、歴史小説。なんて贅沢な一冊!そしてどの分野においても大満足のため息レベル。一気に読んでしまって、今から次回作を楽しみにしてしまってます。捨松、ヘンリー・フォールズなど実在の人物たちに興味が湧いて好奇心が刺激されています。何よりイカルをはじめとするキャラにまた会いたい!!(読者の方より)

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