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今週のおすすめ

父を送った夜の、“幸せな夢”から生まれた絵本『さくらの谷』

さまざまな年齢の子どもたちにむけて物語をつむいできた富安陽子さん。お父さまを亡くされてほどなくして、ある“幸せな夢”を見たそうです。この絵本は、その夢から生まれました。児童文学作家による「物語」の絵本を、お楽しみください。


ふしぎな谷であったのは、なつかしい人たち

 春の気配がかすかに感じられる3月の肌寒い日、「わたし」は灰色の空の下、かれ木におおわれた山をずっと歩いていました。

 ふと木立がきれたところで、ふかい谷をみおろしたとき……なんとそこだけ、満開の桜が咲いているのを目にします。谷からはかすかに、たのしそうな歌声まで聞こえてくるようです。

さくら やなぁ
さくら とてぇ
さくら ゆえぇ
さくや ちらすや かぜまかせぇ

 歌声に誘われるように、谷につながる細い道を歩いて行くと、桜の木のまわりで大勢の人が宴会をしていました。しかも、よくみればそれは、人ではなく、色とりどりの鬼たちです。

 なかの鬼に手招きされて、花見の輪にくわわった「わたし」は、目の前に広げられたお重箱をみてびっくり! なんと、それは幼い頃、母親が運動会に作ってくれたお弁当にそっくりだったのです。

 そのあと鬼たちとかくれんぼをすることになった「わたし」。「鬼」になって、鬼たちをさがすうちに、ふと自分が追いかけているのは、本当に鬼なのだろうか? というふしぎな気持ちにつつまれます。

 こっちの木のかげにかくれたのは、おかあさん。そこの木のうらには、おとうさんがいるような気がするのです。それは、みんな、みんな、もうこの世をさってしまった人たちなのでした。

 そうか。みんな、ここにいたのか。桜の谷であそんでいたのか──。

 

児童文学作家、富安陽子さんの夢から生まれた物語

 これまでに絵本・読み物問わず、さまざまな年齢の子どもたちに向けた物語をつむいできた富安陽子さん。今回の物語は、鬼たちのシーンや、たびたび登場する
「さくら やなあ さくら とてぇ さくら ゆえぇ さくや ちらすや かぜまかせぇ」
というフレーズなど、どこかなつかしい昔話のような形式をとりながらも、これまでに読んだことのない新しい展開の物語で、多くの読者の胸をじんわりとした幸福感つつみこんでくれます
 
 絵を担当したのは、画家の松成真理子さん。華やかな満開の桜の谷のようす、親しみやすさにあふれ、うつくしい色で彩られた鬼たち、ほほにあたる桜の花びらの感触までが伝わるような桜吹雪など、あたたかみのあるイラストで、読者をさくらの谷へ誘います。
 
 あなたもあの山の向こうへでかけてみませんか。なつかしい人たちに、であえるかもしれません。
 
*『童話作家のおかしな毎日』に収録されている一編「運動会」には『さくらの谷』につながる、お弁当のエピソードが掲載されています。また、お父さまとのエピソードの中でも秀逸の一作となっている「ランドセル」はウェブでもお読みいただけます。関連記事よりぜひお楽しみください。

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