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今週のおすすめ

そのおでん屋には、ふしぎなお客がやってくる。安房直子の童話『雪窓』を絵本で。

冬になると食べたくなる、ほかほかのおでん。『雪窓』の主人公のおじさんは、おでん屋台の店主です。山のふもとで、お客さんのお腹と心をあたためていたおじさんに、ふしぎなお客さんたちが、ほんのりあたたかな幸せをもたらします。
 
安房直子さんの童話の世界を、山本孝さんの味わい深い絵でお楽しみください。

 

「三角のぷるぷるっとしたやつください」

 山のふもとの村に、一軒のおでんの屋台がでました。『おでん・雪窓』と書かれたのれんの向こうには、愛想の良いおじさんが立っています。
 
 さて、ある初雪がふった晩、ひとりのお客がやってきました。
 
「三角のぷるぷるっとしたやつください。」
 
 おじさんが顔をあげると、なんと目の前にすわっているのは、たぬきではありませんか。たぬきは、それからも毎晩やってくるようになって……とうとう、おじさんはたぬきを助手としてやとうことにします。おでんやさんの仕事に興味津々だったたぬきは大よろこび! 
 
 一方、これまでお客さんが引いたあと、寂しい気持ちで屋台の明かりを消していたおじさんは、たぬきと一緒に、お酒をのみながら、いろんな話をしたり、歌をうたったりする夜が楽しくてなりません。
 

 実は、おじさんがたぬきと過ごす時間をとりわけゆかいに思うのには、理由がありました。それは、いつも胸をよぎる奥さんと娘さんのことがあるからです。奥さんを亡くし、しばらくして娘さんを亡くしたおじさんは、いまはひとりぼっち。小雪の舞う晩は、娘を失った夜を思い出し、せつなくなるのでした。でも、いまはなんだか家族ができたよう。
 
「よのなかが、ひとまわりも、ふたまわりも、ひろがったような気になるのでした。」

ある晩やってきた娘の正体は?

 ある雪がどっさりとふった晩のことです。お店を閉めようとすると
 
「もうひと皿ください。」
 
 という声がきこえました。あわてて顔をあげると、そこに座っていたのはひとりの娘さん。山のむこうの野沢村からわざわざおでんを食べにきたというのです。ここんな遅くにみょうだな? と思い顔をまじまじとみると、どことなく亡くなった娘の美代に似ているではありませんか。

 

(生きてりゃ、十六だ。)
 
 娘さんと話しているうちにすっかり、この子が美代だと確信したおじさんでしたが、たぬきには別の考えがあるようです。たぬきが思い出していたのは、子だぬきのころ、母さんに注意された雪女の存在でした。
 
「雪女につかまったらさいご、こごえてしまうんだから。」
 
 
 次の日から、おじさんはまた美代がこないかこないかと待ちあぐねますが、その姿をみることはありませんでした。
 
 そして、とうとう美代に会いたい一心で、峠をこえて野沢村まで屋台を引くことにしました。たぬきはあれこれと忠告をしますが、最後はおじさんの熱意に動かされ、お供をすることに。

 

 実はおじさんが峠をこえるのは、火の玉のように熱くなった美代をひとり背負い、野沢村まで行って以来のこと。おじさんの胸に、あの晩のことがよみがえります––––。
 
 果たして、娘は雪女なのか、美代なのか? たぬきとおじさんはどんな夜を過ごすことになるのでしょう。
 
 おじさんの笑顔のなかにあるせつない気持ちや、雪窓という屋台の名前の所以に思いをめぐらせながら、つぎつぎと起こるふしぎな出来事に思わずひきつけられる絵本です。つづきはぜひ、本でお楽しみください。

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