物語には色がある。
表題作「北風のわすれたハンカチ」は、山の中にたったひとりで暮らすクマの物語。
家のとびらにはこんな紙が1枚。「どなたか音楽をおしえてください。お礼はたくさんします。クマ」
最初の1文で一気にその世界へ引き込まれ、その後の1文でクマの孤独が一気に伝わってくる。こいつが近くに居たら「クマぁ~」って叫んで抱きついてもふもふしたくなるような場面が続く。
なんと静かで、なんと深い物語なのだろう。
読み終わった後もしばらく北風の音が聞こえるよう。
まさに(英語の)fantasy ではなく(ドイツ語の)Märchenそのものである。
語られる言葉は少ない。その少ない言葉のひとつひとつに、その何十倍もの背景がうっすらとすけて見える。こんな作品に出会ったのは久しぶりだ。
この本には短い3つの物語が収められている。
どこまでも透き通った白と
深くて暗い森の緑、
そしてキラキラと陽光にきらめくような赤だ。
そしてそれぞれ、反対側に別の色が隠れている。
静かな部屋で、できれば一人で読んで欲しい作品。
一番好きな紅茶を1杯、手元に置いて。
(販売部 西川)