2020年9月に刊行し、数々の書評でとりあげられている絵本『がろあむし』。東京の下北沢にあるダーウィンルームを皮切りに、巡回原画展が決定しています。第2弾となる会場は、神保町にある子どもの本の専門店ブックハウスカフェ。10月14日~11月3日までの会期中には、著者舘野さんにまつわるイベントが盛りだくさん。10月24日(土)には、絵本・児童書を長年担当して来られた書店員さんが舘野鴻さんの絵本について語るイベント、題して「必殺!書店員 舘野さんを斬る!」が開催されました。
今回、舘野さんを斬る役として登壇したのは、丸善・丸の内本店の兼森さんと教文館ナルニア国の菅原さんのお二人です。『がろあむし』の原画に囲まれた会場を舞台に、まさに、役者は揃ったというところでイベントがスタート。
ブックハウスカフェ店長、茅野さんの進行で、それぞれのお店の紹介からはじまります。お二人は、もともと繋がりがあるとのことですが、異なるお店で働くという意味では商売仇。ご自身のお店ではない本屋に集まり、児童書売り場における舘野さんの絵本の存在について、作品そのものについて丸裸に(?)するという、斬新な企画です。私も内心緊張していましたが……
東京駅という立地にある大型店でビジネスマンや男性客も意識し、工夫を凝らした切り口で児童書を販売されている丸善・丸の内本店。一方、銀座の真ん中で昨年20周年を迎えられ、子どもたちに本を手渡す司書さんや読書ボランティアの方々も多く通われる老舗の児童書専門店、教文館ナルニア国。互いにお客様を住み分けしているので、共食いはしていませんよ(笑)、と虫たちの棲む自然界になぞらえながら、話題は新刊『がろあむし』が発売されるまでに刊行された、舘野さんの既刊本の話へとうつります。
鮮烈なデビュー作『しでむし』(2009年)、1年の寿命のうち約10か月を蛹で過ごす『ぎふちょう』(2013年)、1ミリにも満たない小さな幼虫をめぐる決死の旅を描く、小学館児童出版文化賞受賞作の『つちはんみょう』(2016年)。各作品にまつわる裏話を舘野さんが、それぞれの作品の魅力や印象を書店員のお二人が語ります。同じ虫を描いていても、特徴の違いはもちろん、それぞれの作品の描き方による印象の違いがあるという話は大変興味深く、つい前のめりになって聞いていました。
今回の絵本『がろあむし』は、地下の暗黒世界に広がる宇宙と、そこに生きる小さな虫の大きな一生、そして、おなじ地平で変わりゆく人間たちの社会を濃密に描いています。兼森さんが「『がろあむし』で繰り広げられる世界を小説で例えるなら、まるでYA作品のようだ」と語られていたのが印象的でした。また、企画から10年の歳月をかけてつくったという話を舘野さんがされると、「基礎がしっかりしている建物が長くもつように、丁寧に時間をかけて描かれた作品はやはり長く読み継がれる」と菅原さんが語ってくださいました。作品を深堀りすることで、児童書売り場の中の舘野さんの絵本の存在感を強烈に実感させられる時間となりました。
イベントでは、死をも意識するコロナ禍の時代について、いかに生きるか?が大事であるということを語り合う場面も。そして、虫にはなれないけれど、人間を野生の生物と重ねてみるとどうだろうか?と舘野さんが問います。アセスメント調査の仕事にも関わってこられた舘野さんは、今回の『がろあむし』で開発によって消えていく野山の姿や変遷も描かれていますが、これは決して人間が悪いという話ではないといいます。自然は、人間の行いや暮らしとともにあるということ。そして、死があるからこそ今をどう生きるかが大事で、それは一番シンプルに生きている虫や植物たちに教わるのだということを語っていました。また、偕成社より刊行している舘野さんの作品は、あまり知られていないマニアックな虫たちばかり。何故そんな虫たちをテーマに描いているか?という質問に、舘野さんは「名もなき虫にスポットライトを与えることは、今生きている奇跡そのものである」と答えられていました。
子どもの本は、年間何千冊もの新刊が出版されます。その中で長年お仕事をされている書店の担当者さん。兼森さんと菅原さんは、数ある本の中でも表紙から「圧(パワー)」を感じる本があるといいます。小さな生物たちが全身全霊で生きる姿を丁寧に描いたこの作品は、そんな1冊だと。そのように、作品に心を寄せ、その作品の向こう側にある著者の想いまでも伝えようと丁寧に販売してくださる書店と、書店員さんの存在があってこそ読者の手に渡り、それがより長く深く届くのだということを改めて実感しました。そして、名もなき小さな虫を描いた『がろあむし』についてとことん語り合う中で、自然界の虫たちのように、いつも飾らない自然体の舘野さんのお人柄を知ることができました。
イベントでは構想中の新作の話題も(!)。何年後かにきっとお目にかかれることでしょう。一匹の虫から描き出される壮大な世界を想像しながら、ゆっくりと次回作の刊行を楽しみに待って頂けたら嬉しいです。
関係者のみなさま、ご参加頂いた皆様、ありがとうございました。
(販売部 髙安)