2018年6月9日、神保町のブックハウスカフェで、『さっちゃんのまほうのて』の共同制作者、野辺明子さんによる朗読会&お話会が開催されました。会場となったギャラリーは満員御礼! お子さんと来ているお母さんもちらほら見られ、にぎやかな会となりました。
原稿執筆に足かけ4年!
『さっちゃんのまほうのて』は、生まれつき手や足の指が少なかったり、短かったり、欠損していたりする先天性四肢障害を持つ女の子、さっちゃんが、自分の障がいを知り、受け入れていく姿を描いた絵本です。『おしいれのぼうけん』(童心社、1974年)の絵でおなじみの絵本作家、田畑精一さん、自身が先天性四肢障害を持つ志沢小夜子さん、そして先天性四肢障害を持つ娘さんの母親である野辺明子さんなどの共同制作で誕生しました。この日は野辺さんが登壇され、絵本が生まれた経緯や制作時の葛藤などをお話ししてくださいました。
絵本を出版する話が持ち上がったのは1979年のこと。野辺さんは自身の体験をもとに原稿を書き始めました。書いては消し書いては消し……やっと納得のいくものが出来上がったときには、なんと4年も経っていたのだそう。何度も練り直していった中で、『さっちゃんのまほうのて』というタイトルだけは最初の案が採用されたのでした。
『さっちゃんのまほうのて』というタイトルにつながる場面を考えていたとき。野辺さんは当初、さっちゃんに上手に鶴を折らせて、「さっちゃんは指がないのに上手に鶴が折れる」「さっちゃんの手はまほうの手だね」という展開を考えていたそう。しかし、障がいの当事者でもある志沢さんから「○○だけどできる」というのは本人にとってはきついことだ、できなくたっていいんだと言われたい、という話があり、最終的に今の展開が出来上がったそうです。
弟の手をじっと見つめるさっちゃん
また、こんな裏話も。さっちゃんに弟が生まれたときのシーン。さっちゃんの視線をよーく追ってみると、さっちゃんは、弟の顔を覗き込んでいるようで、実は弟の手をじっと見ているんです。「弟には指があってよかった」と安心しているのか「なぜ弟にはあるのに私にはないのか」と思っているのか……さっちゃんの真意はわかりませんが、幼い子どもの心のゆれ動きがこちらにも伝わってくるようです。実は繊細な描写がされている場面だったんですね。
イベントの中盤では、野辺さんによる読み聞かせも行われました。野辺さんのあたたかく張りのある声で語られるストーリーに、会場全体が引き込まれているようでした。
最後には野辺さんの娘さんも急きょ登壇され、ある小学校の授業で教壇に立った際のエピソードや、子どもたちに、障がいがあることは特別ではないということが「伝わった!」と感じた瞬間をうれしそうにお話しされていました。
今回のイベントは『さっちゃんのまほうのて』の原画展にあわせて行われたものでした。先天性四肢障害児父母の会では、今後も機会があれば原画展を企画したいそうです。もしお近くで開催される際にはぜひ立ち寄ってみてください! さっちゃんがあなたを待っています。
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(販売部 井上)