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偕成社文庫100本ノック

第81回(プレイバック中!)

少女アンネ–––その足跡

『少女アンネ–––その足跡』シュナーベル 著/久米穣 訳

「アンネの日記」を読んだことがあるでしょうか?

 私は幼いころ愛読し、それが心に残っていて(もちろん、それから日記をつけはじめたのは言うまでもありません。)、数年前、オランダにあるアンネ・フランクの家に行ったことがあります。その博物館の資料で初めて知ったのですが、ナチス・ドイツ政権下にあったオランダの亡命政府が、戦後をみすえて、「戦時下で国民が体験した困難を正しく後世に伝えるため、日記や手紙など、個人の記録をとっておくこと」と国民にラジオで呼びかけたそうです。それがきっかけで、アンネも自分の日記を戦後出版する思いで、清書をしはじめたそうです(途中で書き直しをしているのですよ)。なぜこれほどまでに整えられた日記をアンネが遺したのか、はじめて納得しました。

 帰国後、会社にもどって読んだのが、この『少女アンネ––その足跡』です。これは、著者のシュナーベルさんが、戦後を生き延びた父親のオットー・フランクをはじめ、日記に登場するアンネの知人・友人・関係者たちをつぶさに探しまわって42人から話を聞き証言をあつめ、日記だけではわからない、活き活きとしたアンネ像を浮かび上がらせた、(すごく労力のかかっている)たいへん貴重な作品です。また、それと同時に、恐ろしい秘密警察(ゲシュタポ)から彼らを守るためにアンネの日記に登場する人だけではなくたくさんの周辺の人々が我が身を削って、危険の伴う行動をしていたことがわかります。人が書物に触れる機会というのは、さまざまですが、いちばん興味をもって読める時期に読むと、パズルが頭のなかではまって、ぐーっと吸収でき、とても深く頭にのこるものです。

 読書にはじまり、現地へ行き、また読書へ戻る…という経験のなかで、学んだことは数知れず。何か本を読んでいて、そこには詳細が書いていないものに興味が芽生えたときは(なにもそれにまつわる場所にいけなくても)ぜひその種を落とさないうちに、続けて読んでみてください。「アンネの日記」を読んで、もっとアンネのことが知りたいな! と思ったとき、インターネットで画像検索したり、ウィキペディアを見るのもいいですが、私はもっとやわらかな人の言葉で語られた生きた「アンネ」を知ることができる、『少女アンネ その足跡』をおすすめしたいと思います。

 ちなみに、こちらの作品は中学生向きですが、小学校中・高学年向きに同じ作者・訳者で、この本をもうすこしやさしくわかりやすく書きなおした『悲劇の少女アンネ』もおすすめです。(むしろ偕成社の書籍としてはこちらの方が知られているのですが、文庫版の方がもっと詳細なことを知ることができます。)年齢に合わせて読んでみてくださいね。

(販売部 宮沢)

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