2月。冬真っ盛りですが夏休みの話です。
恋という言葉を当てはめるには、まだ少し漠然とし過ぎているような、真っすぐな憧れや友情が生き生きと書かれた、爽やかで温かな話でした。同時に、本人にはどうすることもできない少し辛くも思える現実的な要素が、登場人物の生活の背景や出来事としてそのまま書かかれていることが印象的な話でもありました。そのアンバランスな感じが肝かもしれません。『人魚がくれたさくら貝』はロマンチックであり、リアリスティックでもある話です。
登場人物は、おばあちゃんの住んでいる海辺の町へ、1人で遊びに来た都会的で快活な小学生4年生の女の子サチコ。その海辺の町で住む、吃音のせいで内向的になり孤立している小学生5年生の男の子テツジ。2人を中心に話は進んでいきますが、テツジをからかう周りの仲間たち、おばあちゃん、先生たちも海辺の町ののんびりとした雰囲気を感じさせてくれます。
本のタイトルに「人魚」とあるように、物語が進むにつれて、彼らはそれぞれの「人魚」を見ることになります。その人魚の正体を握るのは、テツジがサチコの為に見つけた1つのさくら貝。さくら貝はその年の夏休み、海辺の町でのドラマに大きな役割を担いますが、もう1つ、止まっていた重要な過去を未来へと繋いでいくことにも一役買うのです。
サチコ、テツジ、からかっていた仲間たち…、彼らは皆自らの行動によって、自分の変化を自覚して、自身の未来をきっと後押ししてくれる大切な何かを得て日常へと戻っていきます。なんだか良いなぁと思いました。
さて、冒頭で「新川サチコ。小学四年生、身長百三十三センチ、体重三十二キロ。ウエストやバストはわかりませんが、すらりと足がながくてスタイルはいいほうです。」と説明されるサチコは、人見知りもせずハキハキ話すことができて、思い遣りもあるしっかり者のような面もあるのですが、お母さんが大好きな甘えん坊だったり、「人魚姫」の物語を読んでしまってからは人魚のことが頭から離れなくなってしまったり、と幼い子供な面もまだまだ残る魅力的な女の子です。海辺の町に、うすいピンク色のワンピースで突如として現れた標準語を話すサチコは、テツジやテツジの仲間たちを魅了してしまうのですが、地方出身の僕は、なんとなく、分かる気がします。ぜひ!読んでみてください。
(販売部 嶋田)