変身願望。多かれ少なかれきっと誰にでもあるのではないでしょうか? 特に変身願望と妄想壁が強かった子どもの頃の私にとって、願えば姿を変えられるということはとっても魅力的でした。というより、むしろ変身は出来るものだと思っていました。この本の主人公みちこのように。
小学三年生になったばかりのみちこは怪獣が大好きな女の子。かけざんの九九は、ぜんぶいえないけれど、かいじゅうの名前なら二十八種類も言えてしまう女の子です。
そんなみちこがいつものように妹のミミとテレビに夢中になっていたある日のこと。姉妹は大好きなかいじゅう番組の後に〈まほうのマリちゃん〉を見ていました。マリちゃんは、まほうのめがねをかけゴニョゴニョとつぶやくと、たちまちすきなものに変身できます。みちことミミの二人はテレビのマリちゃんといっしょにぎゅっと目をつぶり「かわれ、かわれ、かわれ…」と唱えてみました。すると、なんとみちこはかいじゅうに、ミミはカエルになってしまいました。
普通この類のストーリー展開は、かいじゅうになったけど実際は夢だったとか、日常とは別世界のかいじゅうの世界に迷い込んだファンタジー、というパターンが多いと思います。が、この話は夢オチでも異世界ファンタジーでもありません。かいじゅうになったみちこと、かえるになった妹のミミがいつもの家族の中で過ごし、現実と同じ時間が流れる中でドタバタながらも、元の姿に戻るまでの一週間を過ごすという話です。
そんなわけで、読者はかいじゅうになったことも、かえるになったことも妙に親近感をもって読み進められるのだと思います。そして、ひょっとして自分も目をつぶってゴニョゴニョと唱えれば憧れの何者かになれるのではないか?と信じてしまいます。
勉強よりもテレビが好きだとか、かいじゅうや魔法に憧れるという子どもらしさの描写、どこにでもいそうな家族や先生の登場は、いつの時代も変わらない私たちのいる現実世界と同じで、そのありきたりの中におかしな出来事が共存しているということが何よりこの本の一番の魅力です。
『かいじゅうになった女の子』は、児童文学作家として数々の人気作品を描いている末吉暁子さんのデビュー作になります。1975年に偕成社から出版され、今はこの「偕成社文庫」という形で読むことができます。子どもの頃に大好きだった話が、たくさんの子どもたちに愛され今も尚読めるという喜びは一入です。
「偕成社文庫」はちょっと難しそうだな、古典名作や長いお話はまだ…という子どもにもおすすめできる楽しい一冊です。
(販売部 高安)