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偕成社文庫100本ノック

第8回(プレイバック中!)

コンチキ号漂流記

『コンチキ号漂流記』ハイエルダール 作/神宮輝夫 訳

「探検」や「冒険」という言葉を聞くと、心のなかがヒリヒリしてきて、今すぐ荷物をまとめてでかけなければいけないような思いにかられます。そこにはなぜか甘い誘惑の匂いがあるのです。この「コンチキ号漂流記」には、全編をとおしてそんな甘い匂いが充満しています。

 ノルウェーの学者、ハイエルダールはある日気づいてしまいました。「南アメリカの石像と、ポリネシアの石像は似ている」。ヨーロッパ人が「発見」するもっと前に、南アメリカからポリネシアに行った人がいるに違いない。気づいてしまったら、確かめずにはいられません。ハイエルダールは仲間をつのり、いかだを組んで、ポリネシアにむけて旅立ちます(注・船ではなく、いかだです)。当時の人がポリネシアを発見したルートを再現しようというのです。

 ふつう、まともな人はいかだで太平洋をわたろうなんておもわないです。動力もなければ、波をよけてくれる船室もありません。(一応、竹で組んだ小屋がいかだにはついていますが)いかだですから、食糧だってそんなに積めません。頼りになるのは、力強く流れる海流と貿易風、そして「南アメリカの昔の人もこうやってポリネシアに行ったに違いない」という自分の学説だけです。ちなみにその学説は出発前にほかのみんなから、それはあり得ないわー、って、けちょんけちょんにされています。ハイエルダールははたして……
と書くと、苦難に充ち満ちた航海だったのだろうな……となんだか暗くなってしまいますが、そうでないところがこの漂流記のおもしろいところです。あくまでユーモラスに、軽やかに、ひょうひょうと、この航海のことを書いています。自分を信じる力がものすごくある人です。

「きょうは、ぼくが料理当番なので、甲板の上でトビウオを何びきかひろう。竹小屋の上にヤリイカが1ぴきいた。トルシュタインの寝ぶくろの中には、名まえのわからないさかなが1ぴきはいっていた…」(冒頭より)
私もいつか、いかだを組んで、甲板でひろったトビウオを食べつつ、ポリネシアまでいってみたいです。

*この冒険を描いたノルウェーの映画『KON TIKI』は2013年のアカデミー賞(外国語映画部門)にノミネートされています(受賞には至らず)。ライフ・オブ・パイなみの海洋アドベンチャーに仕上がっているらしく、どうやら日本でも公開されるようで、今からめちゃくちゃ楽しみです!

(編集部 秋重)

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