岡田淳さんの作品には隙間があります。物語の世界への隙間です。
『びりっかすの神様』を久しぶりに読み返して、完全にその隙間に入り込んでしまいました。「ただ読んでいる」だけではなく、「体験している」といった感覚に近いでしょうか。そういう物語です。大人も子供も関係ないですね。楽しんで隙間にはまってください。
さて、今回の『びりっかすの神様』について。
「一番になることより、もっともっと大切なことって何でしょうか?」
それがこの本のテーマです。とても難しい。子供に聞かれても即答できる自信が私にはありません。しかし、くたびれた背広とよれよれのネクタイ、背中に羽のはえた20㎝ぐらいのおじさんである「びりっかすさん」が、その答えに導いてくれます。
この物語は、テストも給食も、なんでも競争させられる4年1組でのお話。そして、「びりっかすさん」はびりの人にしか見えない不思議な神様(?)です。
主人公の始(はじめ)は「びりっかすさん」に会うために、わざとテストで0点を取り続けるのですが、やがてクラスのみんなにも「びりっかすさん」が見え始めます。一緒にテストで最低点をとったり、給食も食べ終わるのが一番遅い人に合わせたり。そんな事をしている内に次第とクラスがまとまっていくのですが、やがて「わざと負けるっていいことなのかな」と考えるようになって……。
物語のラストは心がふるえます。自分たちで考えて自分たちで出した答え、「びりっかすさん」のまっすぐな言葉、そのどれもが響いてきます。学校や社会は、考えるということを放棄しても進んで行ってしまうもの。『びりっかすの神様』を読みながら、4年1組の1人になって、自分だけの「一番になることより、もっともっと大切なこと」を探してみてください。
競争社会に身を置く大人の皆さんにもオススメの1冊ですよ。
(販売部 大西)