小学校高学年の頃、クラスでとても流行っていた本、『二分間の冒険』。みんながおもしろいおもしろいと言っていて、読んでみよう!と思ったときにはすでに図書館で予約のなまえがずらり。順番を待って待って、ようやく手にして読んだことを覚えています。
この本、まずタイトルが秀逸です。「二分間」の「冒険」。この「二分」という短さがもう絶対にありえなくて、そのありえなさにそそられるのです。「二分間」の話なのに、本そのものは—当時単行本で読んだので—ずっしりと重いハードカバー。いったいどんな冒険が待っているのかと開く前からわくわくしました。
物語は主人公の悟という男の子が学校の校庭で黒猫と出会うところからはじまります。言葉をつかう黒猫と話しているうちに、恐ろしい竜が支配する、子どもたちだけが住む世界にトリップしてしまった悟。小学校のパラレルワールドのようなその世界で、元の世界に戻るただ一つの方法は、「いちばんたしかなもの」の姿になった黒猫をみつけ出すこと。悟とともに巻きこまれていく、息を飲むようなはらはらした冒険に身をおきながらも、「いちばんたしかなもの」とは? という大きな問いを常に頭によぎらせ、読み進めるという読書体験が待っています。
そして—これは岡田さんの多くの作品にも共通しますが—非現実の世界が毎日通う小学校の日常の延長で登場するのが、『二分間の冒険』の大きな魅力です。ファンタジーの世界がぐっと自分に近づいてくるのです。大人になって岡田さんが小学校の図工の先生と児童文学作家という二足のわらじをはかれていたことを知り、納得! 子どもたちの日常をよくみているからこそ、ありふれた学校生活の中に潜む、非現実へトリップできそうな、“穴”のようなものをおさえているのかもしれません。
(販売部 宮沢)