10月4日(木)に、代官山 蔦屋書店で、赤羽末吉さんの三男の妻であり、赤羽末吉研究者の第一人者である赤羽茂乃さんと、チェコ在住の絵本作家出久根育さんのトークショーが行われました。代官山 蔦屋書店では、ただいま100年愛される絵本作家「子どもの心に灯をともす 赤羽末吉の世界」と題したフェアを展開中。今回のトークショーはこのフェアにあわせて開催されました。
2020年は、赤羽末吉さん生誕110周年、没後30年
日本を代表する画家赤羽末吉さん。数々の著作の中でも、『スーホの白い馬』がとりわけ多くの方に知られている絵本ではないでしょうか。日本人として初めて、国際アンデルセン賞・画家賞を受賞された赤羽末吉さんは、2020年が生誕110周年、没後30年の年です。この赤羽イヤーに向けて、より多くの人に赤羽さんの絵本の魅力を知ってほしいと開かれた今回のイベントに合わせて、偕成社では『ゆきむすめ』『てんぐだいこ』の2冊をひさしぶりに重版しました。
赤羽茂乃さんと出久根育さんの出会い
赤羽茂乃さんが、トークショーのお相手の候補として、まっさきに浮かんだという出久根育さん。『あめふらし』の出久根さんの絵をみて衝撃をうけた茂乃さんと、幼い頃から絵本に親しみ、画家としても赤羽末吉さんを尊敬してやまない出久根育さん。出久根さんは赤羽さんの資料があるという言葉に惹かれて、幾度か、茂乃さんのご自宅にも伺ったことがあるのだそうです。
赤羽ファンの出久根さんが忘れられない1冊が、『うりこひめとあまんじゃく』。幼い頃から「こわいもの」に惹かれた出久根さんでしたが、この絵本のおそろしさはずっと胸に焼き付いているそうです。出久根さん自身、描かれる絵のテーマとして「こわい」というワードを長年お持ちだったのだとか。(たしかに、こちらの気持ちを見透かされているような鋭い目をした人物の絵、印象的です)
赤羽末吉さんと出久根育さんの絵に見る共通点
トークでは、赤羽さんと出久根さんの絵の共通点が多く語られました。独特の色づかい、筆づかいが魅力のおふたりの絵ですが、特に印象的なのが、青、赤、そして雪景色。
茂乃さんの評では、出久根さんの青は、「青がそれとして絵のなかで冴えている」一方、赤羽さんの青は「いろいろな色の中の青」なのだとか。「赤羽さんの青の使い方は理想」と出久根さんは、うっとり。
あるいは雪について、茂乃さんが出久根さんの描くチェコの雪が「人のくらしをのせていく雪」と表現すると、出久根さんは、日本の雪は「とざされた雪」、と返されていました。出久根さんの描く風景の一部となっている雪景色、そして赤羽さんが描く読者を雪の中にすっぽりととじこめてしまうような雪景色、改めておふたりの絵本を見比べてみたい気持ちになりました。
なかでもおもしろかったのは、「赤」についてのエピソード。出久根さんは師匠であるドゥシャン・カーライさんにも「育は赤だね」と言われるほど、赤の使い方が独特で印象的な画家さん。
まだ日本に住んでいた頃に描いた『あめふらし』では、残酷な女王に対して「強い生命力を感じた」ため、鮮やかな赤を使ったそうですが、その後、赤のとらえ方が変化した出来事があったそうです。
それは、2002年にチェコへ移住した際、チェコ伝統の豚の解体の行事「ザビヤチカ」に参加したときのこと。出久根さんは、ぜひ自分でやってみたいと名乗り出て、指示されるままに屠殺のための作業を行い、いよいよ血抜きに入ったとき……目の前に見たことのないうつくしい赤色の血がさあーーっと流れてきたそうです。そのとき、「本物の赤に出会った」という気持ちがしたという出久根さん。しばしその赤色に見とれとぼうっとしてしまったのだとか。
以来、出久根さんの中には「赤=いのち」というイメージに変わり、ロシア民話『マーシャと白い鳥』のさし絵を描いた際は、広大なロシアの大地には「いのちがずっとずっとめぐっている」というイメージがあったため、マーシャの服装はやっぱり赤色にしたそうです。
「あめふらし」の赤と、「マーシャ」の赤。ふたつの赤には、こんな違いがあったのですね。
赤羽末吉さんを深く理解し、作品を愛されている茂乃さん。言葉の端々から絵に対する向上心と、赤羽さんへの尊敬の気持ちが伝わってきた出久根育さん。おふたりの詩的でおだやかな掛け合いが楽しい一夜でした。
(販売部 宮沢)