小学生にとっての学校の先生は、何でも知っていて何でも出来る大人という印象が強く、自分の親ともまた違う特別な大人です。生徒の疑問にはすべて答えられて当たり前だし、生徒のお手本となるように振る舞わないといけないし、尊敬される先生という立場が崩れてしまわないように、先生は日々プレッシャーと闘っているのです。でも、そんな先生が給食でこっそりと嫌いな食べ物を残してしまったら、どうでしょうか。
お話に出てくる三年一組は学級会で「給食を残さず食べること」と決めたのですが、ある日吾郎は担任の古谷先生が口を拭くふりをしてにんじんを出し、ポケットにしまうところを見つけてしまいます。そのことに気が付いたのは吾郎だけ、あえて他の生徒に言わずだまっている代わりに「先生の通信簿」を付けることにしました。もちろん、先生の評価は「◎たいへんよい」でも「○ふつう」でもなく、3段階で一番悪い「△もうすこし」です。
しばらくして吾郎以外にも気が付く生徒が現れ、隠しきれない古谷先生はにんじんが嫌いで残していたことをクラスに正直に打ち明けます。先生は信用を失くし、生徒たちは怒ってしまうのか…と思えば、決してそんなことはありませんでした。むしろ弱みを打ち明けた先生をクラスの生徒たちはあたたかく迎えます。
先生にも出来ないことや苦手なことがあるのに「先生だから」と虚勢を張るよりも、あえてダメなところを打ち明けたり、生徒にお願いをしてみたり、大人が読むと古谷先生のちょっと頼りない人柄も共感を覚えます。どんな人にも苦手なことや出来ないことってありますからね。
吾郎が「△もうすこし」と付けた先生の通信簿は、引き続き古谷先生を見ながらどのように変わっていくのか、楽しみながら読み進められるはずです。最後に蛇足ですが、1976年が初版の本ですから(※文庫版の初版は1984年)、土曜日に授業があるシーンも描かれています。現役の小学生が読むと不思議がるかもしれませんね。
(販売部 柴原)