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偕成社文庫100本ノック

第58回(プレイバック中!)

ごんぎつね

『ごんぎつね』新美南吉 作

 今年の1月末、お仕事で「新美南吉記念館」へお邪魔してきました。
 新美南吉といえば、『ごんぎつね』が有名ですよね。多くの『ごんぎつね』の絵本の中でも、黒井健さんの絵のものは「あ、知ってる!」という方が多いのではないでしょうか。こちら、偕成社の本です。……というといきなり宣伝っぽいですが、つまりその辺のご縁で、記念館へお邪魔したというわけなのです。

 さて、今回ご紹介する偕成社文庫もタイトルは『ごんぎつね』。こちらは新美南吉の童話集で、表題の『ごんぎつね』の他、いろいろなお話14編が入っています。

 新美南吉はわずか29歳で亡くなった若い作家です。でもその作品のずっしりとした重さや、「命」や「人の気持ち」の描写は、まるで長く長く生きた人の語る言葉のようです。『ごんぎつね』を書いたのが18歳のとき、と知ったときは、なんということ!とショックを受けました(比べるものではないと知りつつ……)。

 この文庫の中に『屁』という一作があります。そう、「おなら」です。
 いつもへらへら笑って、ボーッとしていて、みんなによくからかわれる石太郎の特技は、なんと「おならをすること」!授業中おならをしてはみんなに「また石太郎だ!」とワイワイからかわれ、石太郎はニヤニヤ。どんくさくて田舎くさい石太郎を、クラスのしっかり者・春吉はちょっと疎ましく思っています。
 ところがある日の授業中、春吉は我慢できずにおならをしてしまいます。するといつものように「あっ、くさ」と誰かが言い出し、春吉が言い出せないうちに、みんな「また石太郎か!」「くさい、くさい!」と盛り上がり、おならは石太郎のしたものと勘違いされます。石太郎は何も言わず、へらへらするだけです。
 自分はちゃんとしているのだ、という自負のある春吉は、何度も言い出そうとするのですが、タイミングを逃し、翌日になっても、その次の日も、言い出せません。そしてだんだん、(きっとみんな少なからず、じぶんのおならを石太郎のせいにしているんだろう)と考えるようになるのです――「心のどこかで、こういう種類のことが、人の生きてゆくためには、肯定されるのだと春吉には思えるのであった」(P62)。
 愉快そうなタイトルからは想像の出来ないお話で、設定や始まりが明るいだけに、より深く考えてしまいます。

 他にもこうした、ちょっと愉快で、読んでいくうちに真剣になるお話が並んでいます。文章に散りばめられた、南吉の可愛らしい言葉遣いも魅力です。

 むかし読んだけど、だいぶ忘れちゃったなあ、という方がいらっしゃったら、ぜひこの文庫版で、もう一度南吉作品を読んでみてください。

(販売部 松野)

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子どもが2歳になり、急にのりものが大好きになりました。この本は同じく車が大好きだった私の弟が小さい頃気に入って毎日読んでいたもので、私も一緒に見ていたのでとても懐かしかったです。もちろん子どももすぐに気に入り、毎日のように寝る前に読んでいます。(2歳・お母さまより)

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