この本には、表題の「阿Q正伝」「故郷」をはじめ、全部で6編の小説が入っています。今回は「阿Q正伝」についてのおはなしです。
「阿Q正伝」をはじめて読んだのは、たぶん高校生のころです。教科書に載っていたのかもしれないし、図書館で見かけたのかもしれないし、きっかけは忘れました。ただ、タイトルがやけにパンクだな!と思ったのをおぼえています。中国の人が書いたのに、「Q」ってなんなんだ……オバケなのか……もう漢字ですらないし……と表紙に踊るタイトルをじっと見つめていました。
はじめて読んだ時も、今この文章を書くために読み直してみても、このおはなしのことをわたしは全然理解できていない気がします。読み終わって、「え、なんなのこれ?」と頭の中がくらくらします。
主人公は「阿Q」というおじさんで、この「阿Q」のことを「私」が書く、という体裁になっています。阿Qは物事を自分の都合のいいようにとらえるのが得意で、おそろしいほどの自尊心の持ち主です。正直に申し上げますと、あまり好意を持てるタイプの人ではありません。でも、阿Qもひどければ、阿Qのまわりの人もそんな阿Qをなんとなく利用していてわりとひどい。みんなひどいのに、読みすすめるうちに、なぜか自分のなかの触れられたくないものに触れられているような気がして、ムズムズします。阿Qのひどさも、阿Qのまわりの人のひどさも、どちらも私のなかにあるものだからだとおもいます。さすがにわたしはこの小説のなかの人たちみたいには、ストレートにそういうひどさを発露できないけれど。いやーな気分になります。でもなぜかやめられない。なんか変な小説です。
魯迅による「君たち愚民、みんなひどいッスよ!」っていう声明なのかもな、と今は一応おもうことにしています。この小説が発表された時に当時の人といっしょに衝撃を体験したかった、とおもったりもします。まあ、でもよくわかんない話であることにかわりありません。ただ、阿Qの生活のめちゃくちゃな感じは、踊っているような時もあるし、ドラムが聞こえてきそうな時もあって、読んでいて音楽を聞いているような気分になり、そこは気持ちがいいなとおもいます。
わたしのあたまのなかでは、クラッシュの「I Fought The Law」が鳴りました。どの曲が鳴るか、ぜひためしてみてください。
(編集部 秋重)