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偕成社文庫100本ノック

第15回(プレイバック中!)

ぼくのお姉さん

『ぼくのお姉さん』
丘 修三 作/かみやしん 絵

 この短編集には、相手にうまく気持ちを伝えられない子や、もどかしさやくやしさ、やるせなさを抱えた人物たちが登場します。

 今回はこの中から、「歯型」という作品をご紹介したいと思います。
  ––––ぼくは小学5年生のときのことを今でも思い出す。
あるかんかん照りの学校帰り、知らない子が体を大きく泳がせながら歩道を歩いてくるのに出会い、友だちのしげるがころばせようといいだした。それから毎日のように待ちぶせし、その子への意地悪がエスカレートしていくぼくたち。ある日ついに、その子が抵抗し、しげるのふくらはぎにかみつく。しかし、うまく言葉が出ないその子は、大人たちから、一方的にけがを負わせた側と見られてしまう。ぼくたちはこれ幸いと、「自分たちは何もしていない」としらばっくれる。
  事件後、養護学校の先生といっしょに校長室へやってきたその子は、ぼくたちの主張に、文字盤をつかって「う」「そ」と伝え、ごうごうと泣く。それでも、ぼくは本当のことをいえなかった。––––

 しげるをかんだ子の怒りとくやしさがせまってきて、涙がこみあげます。その一方で、自分が「ぼく」だったら、同じような反応をしたかもしれない、とも感じます。あっというまに読めるけれど、なにかきりきりしたものを残す短編です。

 この本に収録されているのは六つの話。養護学校の先生を長年つとめた作者は、理不尽な現実や人の心の動きをあざやかに切りとり、私たちに見せてくれます。その底には、悲しみを抱えた子どもへのはげましや、時に苦しく、時にほっこりとする人生への讃歌があり、子どもたちをしっかりと見守ろうとする大人たちの姿も書かれています。

 収録短編「ぼくのお姉さん」「歯型」「あざ」「首かざり」「こおろぎ」「ワシントンポスト・マーチ」

(編集部 和田)

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毎日をまじめにコツコツ生きるトガリネズミを見ていたら、自分の日常ももしかしてこんなに静かな幸せにあふれているのかも、と思えました。海に憧れて拾ったポスターを貼ってみたり、お気に入りのパン屋さんで同じパンを買ったり。駅中の雑踏やカフェでふとトガリネズミを見かけそうな気がします。(40代)

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