きみは何が一番怖い? 顔の半分が焼けただれた幽霊?
紅蓮の火を噴くモンスター? トイレですすり泣く花子さん?
もしかするとお母さんかも知れないな。でも僕は思う。一番怖いのは勝手な思い込み、妄想なんじゃないかと。
この短編の主人公もそんな一人だ。
まだ医学の発達していない昔、心臓が止まったように見える病気を死亡と間違われ、生きたまま埋葬された事は本当にあったらしい。西洋では遺体をそのまま埋める。被害者はやがて意識が戻るだろう。でもそこは真っ暗な地面の底、石棺の中だ。声を上げても誰にも聞こえない。食べ物もない。身動きすら出来ない。空気が少なくなって気を失うならまだいい。ぎりぎり生きられるほどの空気があったりすると、もしかしたらウジ虫が目や耳や口の中に入ってきて、少しずつ、少しずつ、生きたまま食べられてしまうかも知れない。妄想が生んだ恐怖には終わりがなく、やがて男は狂気の中へ踏み込んでゆく。
この作品集には「ひょっとしたら本当にあるかも」と、つい想像してしまう怖い話が集められている。それは見えない怖さ。言葉に書かれていない部分を頭の中で想像する。これこそが、テレビや映画にない読書本来の醍醐味だと思う。
(販売部 西川)