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ドブルーフッチ!降矢ななのおいしいスロバキア

第14回

Vianočný medovník(ヴィアノチニー メドヴニーク)クリスマスのハチミツ焼き菓子

「ドブルーフッチ!」とは、スロバキア語の「めしあがれ!」です。直訳すると「良い味を!」という感じ。つくった人や食卓に同席する人が、食べはじめる人に向かってかける言葉です。

このエッセイでは、中央ヨーロッパの一国、スロバキア共和国に暮らす降矢ななが、思い出や経験をからめながらスロバキアのおいしいものをご紹介します。 さぁ、みなさま、ドブルーフッチ!


 世界中にコロナ感染が拡大してから2度目のクリスマスがやってきます。今年の夏は感染者がとても少なかったスロバキアも秋口から感染者が増え続け、政府は11月の末からロックダウンを決行。今年の冬こそは……と淡い期待をいだいて準備されていた首都ブラチスラヴァの中央広場のクリスマスマーケットもふたたび中止となってしまいました。新たな変異株の登場やワクチンの3回接種、反ワクチンの人々との分断、など、気持ちが暗くなる日々がつづいていましたが、12月に入ってまとまった雪が降り積もり、風景が一変しました。毎日犬のハルと歩くお散歩コースの丘には、たくさんの親子が訪れ、雪だるま作りやそり遊びに歓声をあげていました。ピンクや明るいブルー、黄色、オレンジ……カラフルなジャケットや毛糸帽子、長靴を身につけた小さな子どもたちが、ほっぺたをピンク色に染めて、真っ白い雪の上を走ったり、ころがったり。絵本の中の一場面みたいな風景を見ていると、コロナ禍なんて忘れてしまいそうです。

 しかし、パンデミックは現実です。2年前に、はじめて我が家に夫・ペテルの家族みんなを招待しいっしょに過ごした大晦日が、年寄り夫婦の話すはるか昔の思い出のように感じます。コロナにかかわる諸々のことが重たい沈殿物のように胸にたまって苦しかった夏の終わり、そこに追い打ちをかけるような辛い出来事が重なりました。下手に時間を空けると呆けてしまいそうで、無理を承知で詰め込み、仕事ばかりやっていたら、12月に入ったある日、娘の七海子が「今年はクリスマスのクッキーを作らない?  アイシングで模様をつけて!」と話しかけてきました。クリスマスのお菓子かぁ……。七海子が小さかった頃は、家の中に立てたもみの木にオーナメントといっしょにクッキーをぶら下げたり、お菓子を作ったりしていましたが、ここ何年かはそんなこともしなくなっていました。

 スロバキアではクリスマスやイースターといった大切な祭日の時には、各家庭でクッキーやお菓子を焼いて、テーブルの上に飾ります。何種類も作り、親せきやご近所さんにおすそ分けしたり、お客さんにコーヒーといっしょにすすめたり。
 最も定番なのは、メドヴニークMedovník (別名 ペルニークPerník)というハチミツ入りのスパイシーな焼き菓子です。クッキータイプとしっとりしたケーキタイプと2種類ありますが、ハチミツとスパイス入りの生地がすこし茶色いのが特徴です。この時期ならクリスマス用の型抜きでモミの木やベルなどの形を作り、焼いた後にアイシングでデコレーションします。クッキー生地の中に混ぜこむスパイスパウダーは、シナモンを筆頭に、クローブ、アニス、八角、ナツメグ、ういきょう、バニラ、カルダモン、しょうが。もちろん全部入れる必要はなく、手軽な袋入りのスパイス・ミックスもスーパーマーケットで買うことができます。
 クッキースタイルのメドヴニークは、焼き立てをすぐに食べるより、数日置いて少し湿気た方がおいしいです。やわらかいけれど噛み応えのある生地は、それほど甘くなくほんのりオリエントの香りがします。

 美大3年生の娘は、1年生の後期から2年間をコロナに見舞われ、学校での作業ができなくなったり、オンライン授業になったりと不自由な学生生活を過ごしていましたが、来年の1月末からラトビアの美大に短期留学する予定です。コロナ禍で、ともするとうつむきがちになる私を尻目に、七海子は外へと飛び出していきます。
「そうね、今年は、いっしょにクリスマスのお菓子を作ろう。何種類か作ろう。作ったことないのも作ってみようか。」
私は仕事の手を止めて、七海子にそう答えました。

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profile

  • 降矢なな

    降矢なな

    1961年東京に生まれる。スロヴァキア共和国のブラチスラヴァ美術大学・版画科卒業。作品は、『めっきらもっきらどおんどん』『きょだいなきょだいな』『おっきょちゃんとかっぱ』『ちょろりんのすてきなセーター』『ちょろりんととっけー』『ねぇ、どっちがすき?』「やまんばのむすめ、まゆ」シリーズ(以上福音館書店)、「おれたち、ともだち!」絵本シリーズ(偕成社)、『いそっぷのおはなし』(グランまま社)、『ナミチカのきのこがり』(童心社)、『黄いろのトマト』(ミキハウス)、『やもじろうとはりきち』(佼成出版社)など多数。年2回刊行誌「鬼ヶ島通信」にてマンガを連載中。スロヴァキア在住。

今日の1さつ

病院の待ち合い室でこの本に出会い、子ども達が大大大好きになりました。痛いことは誰でも辛いことだけれど、治すためにがんばろうというメッセージが小さな子どもの心に響くようです。予防接種の際に「少し痛いけど必要なことだからがんばろう!」そんな時に子どもに読んであげたい1冊です。(3歳、8歳・お母さまより)

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