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ドブルーフッチ!降矢ななのおいしいスロバキア

第9回-1

Narodeninová oslava(ナーロヂェニノヴァー オスラヴァ)お誕生日会 前編

「ドブルーフッチ!」とは、スロバキア語の「めしあがれ!」です。直訳すると「良い味を!」という感じ。つくった人や食卓に同席する人が、食べはじめる人に向かってかける言葉です。

このエッセイでは、中央ヨーロッパの一国、スロバキア共和国に暮らす降矢ななが、思い出や経験をからめながらスロバキアのおいしいものをご紹介します。 さぁ、みなさま、ドブルーフッチ!


 スロバキアは今、8月末から徐々に始まったコロナ禍第2波の真っただ中で苦しんでいます(10月10日現在)。春から初夏の第1波の時は、感染者数も死者もすくなく、コロナ感染防止に関してヨーロッパの優等生と称賛されていたのに、その時の評価など木っ端みじんの勢いで感染者が増えています。厳しいStay homeがあだになり、夏場の輝く太陽の下、人々の緊張感が一挙にゆるんでしまったことが、今の感染拡大を招いていることは明白です。これから寒さが厳しくなる中、どうなっていくのでしょうか。

 今年の8月に夫のペテルが50歳の誕生日を迎えました。スロバキアでは人生の大きな節目のひとつとして、50歳を盛大に祝う習慣があります。盛大の意味は人それぞれですが、家族や親せきを招く会、親しい友人を招く会、職場でなど、2~3回誕生日パーティーを開くのが普通です。こんなコロナ禍が来るとは思ってもいなかった頃、ペテルと私は、夏に山小屋やペンションを借りきって、親子3代みんないっしょに泊りがけの誕生会をしようと計画していましたが、それどころではなくなりました。お誕生日会は1年後かな……と私は密かに思っていました。

 ところが、6月くらいから、ペテルの元に義母や義姉からひんぱんに電話がかかってくるようになりました。なんと、義母は、彼の50歳をこの夏に実家(我が家から車で約7時間)で子どもや孫たちいっしょに祝うと言うのです。ペテルは4つ年上の兄、2つ上と1つ上の姉をもつ4人きょうだいです。上の3人は順々に50歳の誕生日会を実家で開いてきました。末っ子のペテルのお祝いも、ちゃんと実家で開かなければいけない、というのが義母の信念です。しかし、このコロナ禍。重症化リスクの高い老人との接触を極力避けるのが正しいとされてきました。義母も義父も持病を持っています。私はびっくりしてペテルに、それはリスクが高くないか?誕生日を1年後に延ばしたって問題ないじゃない?と提案しました。こんな言い方をするのは気が引けたけれど「もしも自分の誕生日会が原因で両親が感染して死んだら、あなたが一生引きずるトラウマになる」とまで言いました。しかし、どうも動き出した義母は止まらないようなのです。私には義母を直接説得する力量はないので、義兄、姉たちを懐柔しようと試みました。しかし、彼らも、母親を止められない。ふたりの姉、カトカとマルツェラは言いました「ママは、コロナ禍で長いこと子どもや孫に会えないことで気落ちしている。息子の50歳を自分の家で祝うことはママの大きな喜び。お祝いできるのならコロナ感染して死んでもいい、って言ってる」と。こういう時ペテルは、急に末っ子の位置にずるりと収まって、母親や兄姉の流れに身を任せてしまうのです。もう50歳なのに!

 スロバキアに来て私には驚きだったのが、親の子、孫への愛着の強さです。特に母親は、息子や娘が社会人になったり、結婚して子どもができた後でも、何かと世話を焼こうとします。日本でもそうなのでしょうか。私は、どちらかというと子どもに縛られたくない母親に育てられたので、スロバキアでペテルのお母さんに会って、ほんとうにカルチャーショックでした。

 結局私は、実家に行く前に家族全員でPCR検査を受け、陰性を確認することを条件に、義母のプランを受け入れることにしました。ネットで検査の日時を予約し、向かった8月のドライブスルー検査場にはほとんど人がいませんでした。テレビやネットでしか見たことのない防護服の3人の検査員が車に近づいてきた時、私は「ほんとにこういうことやっている現実」に頭がぽかーんとしてしまいました。翌日、陰性の通知がスマホのSNSで届き、義母、兄姉に連絡。その翌々日、ペテルと娘、私の一家3人は車に乗って出発しました。私たちの住む首都近郊の街からウクライナの国境近くにある実家まで、西から東へスロバキアを横断する長旅です。高速を走る車の窓の外には、刈り取られ大きなロールになった牧草の並ぶ平原、トウモロコシ畑、ひまわり畑……ゆったりとしたスロバキアの夏の風景が広がっていました。

*第8回につづき、前後編になります。後編は1か月後(11月20日)にアップします。
旅は、誕生パーティは、そしてごちそうは? ぜひお待ちください。

(つづく)

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  • 降矢なな

    降矢なな

    1961年東京に生まれる。スロヴァキア共和国のブラチスラヴァ美術大学・版画科卒業。作品は、『めっきらもっきらどおんどん』『きょだいなきょだいな』『おっきょちゃんとかっぱ』『ちょろりんのすてきなセーター』『ちょろりんととっけー』『ねぇ、どっちがすき?』「やまんばのむすめ、まゆ」シリーズ(以上福音館書店)、「おれたち、ともだち!」絵本シリーズ(偕成社)、『いそっぷのおはなし』(グランまま社)、『ナミチカのきのこがり』(童心社)、『黄いろのトマト』(ミキハウス)、『やもじろうとはりきち』(佼成出版社)など多数。年2回刊行誌「鬼ヶ島通信」にてマンガを連載中。スロヴァキア在住。

今日の1さつ

小学生への読み聞かせのための本を探しに図書館へ行って、この本に出会いました。とてもやさしい感じの題名、やさしい絵の表カバーで、手にとり読みたくなりました。懐かしい~そんな感じで、読み終わってやっぱりふわ~っと、逝ってしまった方達のことを思い出したりしてしまいました。(60代)

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